当サイトには擬人化設定がありますが、ケロン体を想定してお楽しみいただければと思います。
後日追記します。
追記しました。(2011.12.24)
幸せのディナーはだいすきな君と(2011年クリスマス)
「……えぇ、と? つまり、どういうことでござる?」
「だからさっきから言っているだろう。貴様の、12月24日の予定を聞いている」
「……いや、だからさっきから言っているように、拙者は特に用事も何もないでござるが……」
なんとも歯切れの悪いドロロの返事に、ギロロは苛立ちながら右手をずい、と差し出した。
ドロロはその手を見る。改めてギロロの顔と、その赤い手に握りしめられているものとをしげしげと眺め、一層怪訝な表情をした。ギロロは何も説明しようとしない。ぱちり、と焚き火の爆ぜる音が空々しく響いた。
「……」
「……」
「……あの、」
「……なんだ」
「……だから、ソレはどうしたのでござるか」
ドロロはギロロが手に持つ物を指差した。
“ソレ”。
それは2枚の紙切れ。
そこに書いてあるのは、最近地球人達に話題のレストラン――本当に人気があり、1ヶ月以上先でなければ予約が取れないともっぱらの噂だ――の名前と住所、そして“お食事招待券”という文字。
「貰ったんだ」
「誰から」
「駅前の福引で」
「…………あぁ、」
そういえば、このあいだから駅前商店街の年末の福引が始まっていたのだった。それに、今日はわざわざポコペン人スーツを着てギロロが外出していたから、そうか日向家のおつかいがあったのか、と、ドロロはぼんやり思い出す。
でも、どれだけ考えても、その事実と目の前にディナーチケットを差し出されている状況との間に全く関連性が見出せない。しかしこれ以上同じような話を繰り返すなんて不毛なことはしたくないし、なんだか不機嫌そうな友人の機嫌をこれ以上悪化させたくもない。ドロロは内心でため息をついた。これらの諸問題を一気に解決するには、どうやらこちらから会話の糸口を提供しなければいけないらしい。ええと、とドロロが切り出した。
「つまり、福引でギロロ殿がこのチケットを引き当てたということでござるか」
「あぁ」
「それならば夏美殿を誘ってギロロ殿が行かれればよいでござろう」
「……夏美は、この日はラジオの公開録音に行くそうだ」
不機嫌の理由はこれか。ドロロはつい苦笑を漏らしたが、ギロロに睨まれて、慌てて咳で誤魔化した。
「成程。ならば、ママ殿に差し上げて」
「日向秋は仕事があるんだそうだ。だから冬樹に渡そうかとも思ったんだが、子どもだけでディナーに行かせる訳にはいかない、と日向秋に先に断られた」
「……じゃあ、ケロロ君は? ケロロ君なら喜んでくれるんじゃないの」
「先約だとさ。冬樹と一緒に西澤家へ招かれているらしい」
こういったチケットを喜びそうな人物はことごとくアテが外れたということか。ギロロが困り果てるのも仕方が無い、とドロロは頷く。
「それで、拙者に?」
「そうだ。貴様と忍者女で行けばいいのではと思ったんだが」
ドロロは首を傾げた。
「ラジオの公開録音があるのでござろう? 夏美殿に誘われたと小雪殿が先日話していたでござるし、となれば拙者もその日は一人でござる……僕はてっきり、君と2人で食事に行こうと誘われたのかと」
「は、はぁ!? ……俺と、貴様が?」
「てっきり」
「……」
ギロロは、そんなこと思いもしなかったというように腕を組んで考え込んでしまった。
というか、だ。ディナーチケットを差し出しながら相手の予定を確認するなどというシチュエーションは、どう考えてもデートの誘いの類だろう。相変わらず、恋愛沙汰の機微にとことん鈍い友人に、ドロロは今度こそはっきりと苦笑した。
「そうか、いや……だから、お前はあんな妙な顔をしていたのか」
「デートのお誘いかと思ったゆえ」
「それは済まなかった」
勘違いをしていた、とギロロは照れ臭そうに頭をかいて、改めてドロロに向き直った。
「しかし、そうだな。考えてもみなかったが、お前と2人なら特に気兼ねも無さそうだ。せっかくの招待券を無駄にするのも忍びない。どうだ、この日が空いているのなら一緒に食事でも」
「友と語らう機会というのも、なかなか得がたいもの。ありがたくお受けするでござる。しかし」
「何だ?」
「場所が場所でござる。その日は、ポコペン人スーツを用意しなくてはならないでござるな」
目的のレストランは、地域商店街の福引の景品に選ばれるだけあって、当然のごとく地球人の店である。確実に目立つであろうポコペン人スーツはできれば避けたいところだが、ドロロの写し身の術は実在する対象者をコピーする術だ。多くの地球人が行き交う場所にその術でもって出かけては後々トラブルになるかもしれない、それならば、多少悪目立ちしてもポコペン人スーツ姿で出かける方がいいだろう。そう説明を受けて、ギロロは納得して頷いた。
「あぁ。30分くらい前に基地で落ち合って、準備をして、それから出かけよう」
「心得申した。それでは24日に」
にこり、と笑顔を残すと、ドロロは名残惜しそうに焚き火から身を剥がし、見回りに行くといって飛び去った。
ギロロはそれを見送ると、ちらつき始めた雪に気付いて掌で受ける。白い結晶は、ほのかな冷たさを残してすぐに消えてしまった。何気なくそんな様を見ていたものの、ギロロはすぐにその手を握って、ざくりと焚き火を掻き混ぜた。
To be continued....Wait till 24th Dec.