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某蛙型侵略宇宙人についての萌え語り&日々のできごとをつれづれと書き記すためのブログ。文やら絵やら、好き放題。
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……きらきらクリスマスのためには、事前準備が欠かせませんよね?
そんなサイドストーリー。



 Show Me Your Smile, Please?



 その日、俺ことギロロ伍長は、宇宙人街を歩いていた。

 来た目的である用事も済ませたことだし、特に長居する理由もない。さっさと帰ろうとソーサーを停めた場所へと足を急がせていたとき、不意に何かが目の端にひっかかった。
 (……ドロロか? 何をしているんだ、こんなところで)
 2、3歩身を戻して一軒の店を覗き込んでみれば、そこには見慣れた青い小さな体のケロン人。ドロロ兵長が、体の半分程もあるかのような大きな本を手に取り、凝視している姿があった。
 随分とじっくり見ているようだ。あの本が気になっているのだろうか。いや、気になっているのを通り越して、心底気に入っているようだ。あの様子なら買ってすぐに出てくるだろう、そう思って、せっかくだから一緒に帰ろうかと出口に体をもたせかけた。あいつには、最近発売されたナイフについて相談したいこともあったから、ちょうどいい。
 だが、待っても待ってもドロロは出てこない。おかしく思って店を再び覗いてみれば、相変わらず本を抱きしめたまま、難しい顔をしている。買うのか買わないのか、どれだけ悩めば気が済むんだ、あいつは。
 結局ドロロは、散々悩んだ挙句に本を書架に戻すと、何やら考え込みながら1人ですたすたと帰っていってしまった。あろうことか、俺に気付かずに、だ。
 あのドロロが俺の気配にも気づかない程とは。正直驚いた。同時に、いったい何の本を見ていたのかと興味をそそられた。ちらりと店の看板を確認する。古書店。スムーズに開くドアから入り、ドロロの立っていたあたりへと進む。
 「確かこのくらいの位置の……ん、これか」
 大きさも装丁もドロロが手にしていたものと同じ本を見つけて、俺も手に取ってみる。
 ポコペン植物大図鑑。おおよそ予想通りのタイトルに苦笑しながら、軽く中を確認する。
 と、思わず俺は目をみはった。
 本自体はよくある植物図鑑であって、それ以上でもそれ以下でもないのだろう。だが、挿絵がいちいち素晴らしい。自分は物の美醜には疎い方だと思っているが、それでも丁寧で緻密な線と柔らかな色遣いに、何か感じるところがある。
 次に図鑑をひっくり返して裏表紙を見る。そして、また納得した。軽く苦笑がこぼれる。
 なるほど、それは確かに気軽に購入を決断できない値段の本だった。本の背中を撫でてみればわかるとおり随分と年季も入っているようだし、もしかしたら稀少な品なのかもしれない。だからといって、あの青い男が買えない程高価なものだというわけでもない。しかし、ドロロは、昔から無駄遣いをしない男だった。
 「必要なものや、ヒトへの贈り物のためなら、これくらいポンと買っちまうんだろうがな……自分のためには踏み切れない、か」
 倹約家というかなんというか。あいかわらず生真面目なことだ。
 仕方ないな、と笑ってしまう。
 そして、先日取り付けた約束を思い出した。奇しくもクリスマスイブのディナーを共にすることになったのだから、プレゼントの一つや二つ、用意しておくべきだろう。これは中々いい考えなのではないだろうか。俺はそう思って、その本を手に持ったままレジで新聞を読んでいる店番の老人へと向かった。
 「すまん、これを」
 「はいよ、……ん? この本は……」
 「どうかしたか」
 老人が表情を曇らせたのに気付いて、俺は尋ねた。
 「いや。ここが店で、あんたが客である以上当然のことだし、お客さんは皆平等だ。それはそうなんだがね。だが、どうにもこの本を欲しがっているらしいヒトがいてね」
 俺は思わず肩を落とし、ため息をついた。店主にも覚えられているなんて、ドロロ兵長、お前はトランペットを欲しがって店先を覗き込む子供か。まったくどれだけ熱心に通っているんだ。やや苦労しながら、俺はなんとか気を持ち直す。
 「あぁ。実はこれは俺が欲しいわけではないんだ。ちょっとクリスマスの贈り物でな……空のような、青い色をしたケロン人のために」
 店主は目を大きく見開いてから、得心したように頷いて本を受け取った。そして笑顔で包装紙を取り出した。
 「なるほど、そういうことか。それならば、あんたもハッピー、あのヒトもハッピー。コイツも大事にしてくれるヒトのところに行く。皆うまくいって、万々歳、だ。少し早いがわたしからのクリスマスプレゼントということで、オマケさせてくれんかね、お客さん」
 店主の好意は元々ドロロの為の好意なのだから、自分が断る道理もないだろう――俺はそう思ったので頷いた。大げさな包装は断りつつ、シンプルな包みを受け取って、代金を支払い店を出た。
 これを見たら、あいつはいったいどんな顔をするだろうか。いや、いったいどんな笑顔を見せてくれるだろうか。そんな思いに、冷たく吹き付ける木枯らしもまったく気にならない。
 意識して頬を引き締めながら、俺は改めてソーサーの停め場に向かって歩き出した。

 ギロロが店を出て歩き出した、その数分後に、何かを決意したような顔でドロロが再び店にやってきた。棚をくるりと回って、しかしいつもそこにあったはずの本が無くなっていることに気付いて驚きの表情を隠せない。慌てて店主に尋ねるも、今売れてしまったというばかり。ドロロは肩を落として店を出て、帰っていった。
 雪の降る夜、嬉しいサプライズが待っていることも知らずに――




 

(2011.12.24)

 

 

 

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