いつもありがとうございます。
とりあえず、やりたいことだけやり逃げをば。
赤(+)青で小話。
とりあえず、やりたいことだけやり逃げをば。
赤(+)青で小話。
無題
「どうも俺には愛人がいるらしいんだが、貴様、知っているか」
数瞬の間を置いて、向かいのドロロが噴き出した。
ギロロはふんっと鼻をならす。
「あ、愛人って……ギロロ君に? どうしたの、なんでまたそんな」
こらえきれず、笑いながら話すドロロに、ギロロはまったく、と同意した。
「ときどき夜中に抜け出していることを勘付かれてな。噂されている」
「え、誰に」
「俺のチームのメンバーだ」
「ああ。そうだね、まあ、密会には変わりないか」
人目を忍び、会っている。それは事実だ。しかし肝心の相手はドロロだ。夜中に抜け出し、銃と刀とで手合せをしているというだけの話であって、色気もへったくれもあったもんじゃない。それを愛人などと言われても、鼻先で笑い飛ばすほかない。
「ふん」
悪びれず、木の幹に背を預ける。
「ギロロ君って、ウソが苦手だし」
「貴様がそれを言うか」
「ウソっていうか、取り繕うのが。わくわくしながら出て来て、スッキリした顔でキャンプに戻ってるんじゃないの」
「……同じことを言われたな」
あっはっはと笑うドロロを睨み付ける。
「そんなに笑うことではないだろう」
「なんとなく想像できて、つい」
ドロロに知った顔をされるのは気に入らない。だが、色気のない話とはいえ確かに密会をしていて、公にできないようなことをしている。それは本当だ。そして、公にできないことを隠すのが自分は苦手だということも、また。
訓練にせよ、作戦にせよ、アサシンの参加の有無は重要な機密に分類される。アサシンが1人加わるだけで局面がガラリと変わり、戦術も大きく方向転換することになるからだ。何より、アサシンがいると知れると油断する者も多く、時には本来の狙いを達成できない訓練内容に終わることすらある。つまり、いくら旧知の間柄だからと言って訓練を勝手に抜け出し決闘をしているなんて、知られるわけにいかないということだ。ただでさえ完全に軍紀違反。しかも互いにある程度の立場に立っているのだから、自ずから慎みをもつべき場面でもある。
……そうは言っても、久しぶりに手応えのある戦いができるチャンスとあって、ギロロにもドロロにもおとなしくしているつもりなど毛頭なかったのだが。
密集する木々に囲まれながら立つドロロが、木の幹に手をすべらせた。
「ギロロ君は、また、サバイバルの腕を上げたでござるな」
「貴様は気配の隠し方と死角の位置取りがうまくなった。今日は苦労したぜ」
「よく言うよ。跳ねた先に銃弾が向かってきたときは、冷や汗をかいたんだから」
毎夜変わらずの反省会。聞く者は眠る木々と夜行性の鳥くらいなものだ。
風の向きが変わった。ドロロがひくりと鼻を動かすのを見て取り、ギロロも立ち上がった。
「さあて、そろそろテントに戻るとするか」
「ドロ。あまり長居すると怪しまれるでござるからな」
「ああ、口やかましい上官に見つからないうちに――……!?」
身体が軋む。
ぎしり、と音がきこえそうなほどの、指一本も動かせない緊張感。
2人が頬を強張らせた時にはすでに、黒い影に背後を支配されていた。
影は、驚愕の表情を浮かべるギロロと気まずいような諦めたような脱力を見せるドロロとを交互に見比べながら、音も無く歩みを進めてきた。ゆったりとくるまる大きな布からは、時々、キラリと光るものが見える。おそらくは刃。それも、極めて鋭利な。
「口やかましくて悪かった」
「はっ……い、いえっ……」
「申し訳ありません……」
「厳罰ものだが、戦いぶりは悪くなく、訓練の一種と言えなくもなし……下手な処分をして、貴君らに憧れる若者が真似をしだしても困る。せいぜい……訓練内容をハードなものにさせてもらうとしよう。夜中に抜け出す体力など残らないほどにな……よいな、ゼロロ」
「はい」
「貴殿もおとなしく戻られるがよい。兄殿に知られればまずかろう」
「兄っ……が、ガルルのことをご存知なのですか!?」
「まだまだ青い」
ゆるく腕を振られる。無駄話はここまでだ。
振り返ることなく、やはり足音ひとつたてずに黒い影が遠ざかっていく。師の背を追うように、ドロロも後へ続いた。1人残されそうになったギロロもまた、自分のテントのある方向へ体を向ける。“お楽しみ”の時間もこれで終わりだ。
――今日のところは。
立ち止まり、ギロロはドロロへ向いた。目が合った。ドロロも、こっそりとギロロへ視線を向けていた。
笑ってしまいそうになるのを必死で堪えて、すぐに顔をそらす。やれやれ、今日のところはさっさと帰るとするか。これしきのことでおとなしくするつもりなどないのだ。どうせそのうち、またいずれ。
そんな目配せも、呆れたため息とともに見逃されたのだった。
(2014.08.10)
なんかこの2人の会話っていつも睦言のような気がしてきました。なんにもないのにエロい笑
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