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某蛙型侵略宇宙人についての萌え語り&日々のできごとをつれづれと書き記すためのブログ。文やら絵やら、好き放題。
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秋の夜長に虫のさざめく - Ⅰ




 (ⅰ)
 果てなく広がる高い空。まるで自分もこの中に溶けて消えてしまいそう。

 秋も深まったとある日、そんな他愛ない事を考えた自分に笑いながら、ドロロ兵長は東谷家の屋根に降り立った。
 日課となっている午後一番の町内の見回りは、何事もなく終了した。同居人の小雪なら今頃は学校で友人たちと笑顔で過ごしていることだろう。周囲を見渡せば塀の上であくびをしている猫と目が合った。にこりと笑いかけて、そのままぐるりと視線を一周させる。どこにも争いなど見当たらない。平和という名の幸せ。ドロロは満足そうに頷いた。
 穏やかな気持ちで空を仰ぐ。
 本当にいい天気だ。
 暑すぎず、寒すぎず、湿度も気温も良好。
 青空にはゆったりと雲がたなびき、時折思い出したように鳥の鳴き声が聞こえてくる。
 夏の盛り、若く生命力に溢れた新緑も好いが、命尽きる最後の瞬間まで鮮やかさを競い合うような紅葉もまた見事。
 頬に柔らかな風を受けながら、こんな日は久しぶりに睦実殿と将棋でも一局、と考えていたところで、突然ドロロの胸がざわり、と鳴った。
 ――――これは、暗殺兵術、虫の知らせ(アサシンマジック、ビー・コネクト)!?
 「隊長殿!」
 急いでケロロ小隊地下基地へ飛び込み、胸のざわつきが強まる方へと進む。感覚に従って降り進んで来てみれば、第1シミュレーションルームが大惨事となっていた。
 立ちこめる煙、壊れて電気系統がむき出しになっている壁。ところどころ配線がショートして、時折大きな音とともに火花があがっている。足元には何かの装置の残骸と思われるものが散乱し、更にそれを覆い隠すように積み重なった瓦礫の山。
 ドロロは目の前の惨状に表情を険しくしたが、すぐにビー・コネクトに全感覚を集中させてケロロの居場所を探った。部屋に僅かに漂う甘い匂いと時折肌に感じる刺激はアサシンならばよく知った薬物だ。既に気化が進んでいるようで、急いで対処しなければ手遅れになりかねない。
 何かを感じてふと顔を上げ、そのまま部屋の中央に向かって大きく跳躍する。
 見据えた先には、中でも一番大きな瓦礫。
 一閃――!
 キラリ、と刀が光を反射したかと思った次の瞬間、瓦礫は細かい破片となって崩れ落ちた。その隙間から緑色の影を見つけて、ドロロは構えた刀を背に納めると倒れ伏しているケロロに駆け寄りしっかりと抱きかかえた。埃や粉塵をはらいながら声をかける。
 「隊長殿! 大丈夫でござるか、隊長殿!」
 頬を叩いても軽く揺さぶってみてもケロロの反応は無い。すっかり意識を失っている。幸いなことに呼吸はある、だが急いだ方が良さそうだ。そう思ってケロロを抱えたまま立ち上がったとき、通信機から陰気な声が聞こえた。
 『く~っくっくっく、ドロロ兵長、アンタは無事か』
 「クルル殿! これはいったい」
 『少々トラブって、ご覧のとおり。かなりの濃度のヤバいガスが漏れ出したんで、地下基地の地上からの隔離……と、第3ブロックの閉鎖が完了したところだ。念のためにこれから第4、第5ブロックまで本部から隔離させておくぜぇ』
 ドロロは応答しつつも、通風口や秘密の通路などを駆使して基地内を駆け上り、ひとまずガスの届いていない部屋の天井裏へと避難した。そして手持ちの薬類を探る。すぐにケロロが吸ったガスの中和液を取り出し、素早い手付きで手ぬぐいに染み込ませてケロロの口元にあてる。吸って、吐いて、一呼吸。ケロロが薬を吸い込んだことを見届けながら、ドロロは再び通信機を耳に押しあてた。
 「隊長殿を保護したでござる。クルル殿は、それに、他の皆は無事でござるか」
 『了解。俺は別室で操作してたんでなんともないっス。オッサンがたんまりガスを吸ったンで一緒に医務室で、ガキはどっかに……あぁ、第2シミュレーションルームに反応アリだ。レーダーが移動してねェところを見ると、お寝んね中かねェ』
 「と、言うと、ガスは第4ブロックまで漏れていたということでござるか」
 『そうみたいっすね。さすが俺様、ナイス判断だぜぇ……くっくっく。シミュレーションの機能は止めてあるんで、回収頼んます』
 「承知。2人を連れてそちらへ向かうでござる」
 通信を切ると、ドロロは軽い動作でケロロを肩に担いだ。
 軽く屈んで、跳躍。
 トン、と足音が鳴ったとき、既にそこにドロロとケロロの姿は無い。
 まるではじめから何もなかったかのような静寂の中、じわりと壁の隙間からガスが浸食し、次第にその場を厚く覆い、包みこんでいった。




 「クルル殿」
 「どーもっす。隊長はそっちに寝かして、ガキはこっち」
 ドロロがケロロとタママを担いで医務室へと入るなり、クルルから指示が飛ばされる。
 素直にクルルの指示に従って2人を部屋の奥に備え付けられたベッドに寝かせてから、ドロロはホッと息を吐いて深呼吸をした。いくらアサシンがどのような環境にも対応できるとは言え、やはり新鮮な空気は心地良いものだ。
 一方、クルルはそれまで看ていたギロロの傍を離れると、まずはケロロの隣に移動して体をあちこち確認する。
 「どれどれ……なんだ、隊長は問題ねェな。何かしたでしょ、ドロロ先輩。ん? その薬? あぁ、処置としては完璧だ。これなら放っといていいか。そのうち起きるだろ。さて、運動強度の高かったガキンチョは、と。ん~、インパクト前後じゃなかったのが救いだな。濃度も高くなかったし、吸い込んだ量もセーフだ。くくっ、運がいい。ま、念のために体温と呼吸の管理を……」
 クルルはテキパキと医療用機械のモニターを見たり、何かの装置を準備したりしていく。本人は医療分野は専門外だと言うものの、日ごろから何かと小隊の健康管理を任されているだけあって、その手際の良さは見事なものである。ドロロは感心しながら、流れるような動きをなんとなく目で追っていた。と、いつの間にやらクルルが目の前に立っている。カルテ片手のクルルにしげしげと眺められて、ドロロは少し気後れして後ずさった。
 「……何か?」
 「アンタはなんともないのか?」
 「アサシンでござるゆえ」
 ドロロが頷くと、クルルは楽しげに笑い、肩をひょいと上げると薬品棚の方へ向かった。棚から薬を物色しながら、ドロロを横目で見てにやにやと笑う。
 「本当に影響が無いみたいっスねェ。いくら薬物に耐性があるとは言え、あの濃度ん中で活動しといて。呆れたカラダしてんなぁ、まったく。そのうち研究観察させてもらいたいもんだぜ、く~っくっくっく……」
 「……それはご勘弁いただきたいでござるよ」
 ドロロはクルルから発せられる不穏な空気から逃げるようにして、寝ている3人の近くに寄った。そのままひとりひとり顔を覗き込んでみる。
 不幸にもガスの直撃を浴びた(クルルが思い出し笑いをしながら教えてくれた)というギロロだが、意識が落ちる寸前に状況を判断したようで口元に布があてがわれており、ガスを大量に吸い込むという事態は避けられたらしい。それに、医務室に運ばれてからはクルルが付きっきりで手当てをしていたから、顔色も悪くない。隣に寝かされたケロロも、決して少なくない量のガスを吸い込んでいたもののドロロが施した応急処置のお陰で大事に至らず、いつも通りの鮮やかな緑色だ。この2人は心配無用。タママだけが少々気にかかるが、クルルの様子を見る限り問題はないのだろう。ドロロは、寝苦しそうに唸っているタママの額の汗をそっと拭いてやった。
 「……ゲロ? ここは……」
 もぞ、と布団の中で身じろいで、ケロロが意識を取り戻した。まだぼんやりとしているようだが、目を覚ましたのなら一安心だ。ドロロはぱっと笑顔を浮かべてケロロの側へ駆け寄り、ケロロ君、と声をかけた。一方、にこにことケロロの様子を見守るドロロの後ろでは、クルルが水筒を手に取りながら、露骨につまらなさそうな顔を見せた。
 「おはよーさん、隊長。アンタが寝ている間にカラダの隅々まで、あんなことやこんなことを実験してみようと思ってたんだが……ちっ、仕方ねぇ。とりあえず水分補給しときなァ」
 クルルは言いながら水筒をドロロに向かって放り投げた。
 ドロロは苦笑しながらそれを受け取り、同じく苦笑しているケロロへ手渡した。しかし、まだケロロの握力が回復していないらしいことに気が付いて、手伝うためにベッドの隣の椅子に座った。ケロロはドロロに支えられつつゆっくりと水を飲んで一息ついてから、へにょ、と頼りない笑みを見せた。
 「ありがとうであります、ドロロ兵長」
 「なんの。隊長殿の体が第一でござるよ」
 「そうね、うん……そうでありますな。……あー、クルル? あのさ、その」
 「込み入った話なら後で、隊長。オッサンもガキも無事――あぁ、ガキの症状が若干重いが、問題無いっす。とりあえず寝てれば?」
 「そう、でありますか……了解であります」
 ケロロはそれで話を切り上げることにしたらしい。ドロロから、作戦用装置の成れの果てや、自分とタママが助けられた時の様子などを聞きながら、時間をかけて水筒の水をすっかり飲み干した。そして心地よさそうに布団に潜りこんだところで、ふと思い出したようにドロロの方を向いた。
 「そういやぁさ、ドロロ?」
 「にん?」
 「お前さん、よく助けに来てくれたでありますなぁ。こっちから連絡する前に、飛んで来てくれたんでショ?」
 ケロロはクエスチョンマークを頭の上に浮かべてドロロを見つめる。
 全てがあっという間の出来事だった。制作中の侵略マシンが見事なまでに大破して、みるみるうちに部屋中にガスが充満していった。ケロロは瓦礫に埋められて意識を失っていたし、クルルも地下基地を隔離して被害を最小に止めることを優先させたので、結果的に他の隊員への連絡は後回しにされていた。それでもなんとか全員の位置の把握を、と、クルルが手元にコンソールを広げたのと時をほぼ同じくして、ドロロが基地にあらわれてケロロを救出した。
 なんというタイミングの良さなのか。まさか、ドロロが偶然、基地にいてケロロを探していたと言うわけでもあるまい。それとも、トラブルを察知してすぐに現場に駆けつけるという、正義のヒーロー的な勘の良さでも持っているのだろうか。あぁ、なんとなく持っていそうな気もするけれど。この青い男は。
 ケロロの言いたいことを理解したドロロは少し困った顔で微笑んだ。
 「アサシンマジックで察知したのでござる」
 「アサシンマジック? あ、もしかしてアレでありますか、ビー・コネクトってやつ」
 ドロロは頷く。
 「存じてござったか。その通りでござる。詳しい事はアサシンの秘密ゆえ、聞かないで欲しいでござるよ」
 「ふうん。了解であります。とりあえず便利ねェ、ソレ。呼んでも呼ばなくても助けに来てくれちゃうなんて、もう、ドロロったら頼りになるんだからぁ」
 まだ弱々しいものの、枕を揺らしていたずらっぽく笑うケロロ。
 ドロロはただ穏やかな表情で、にっこりとケロロを見ていた。






 

Ⅰ(ⅱ)




いきなりハプニングから始まりました。
今回の話はドロロの暗殺兵術のひとつ、ビー・コネクトってどんな術なんだろう、ということをテーマにしています。途中から妄想が暴走しておりますが、最後までお付き合い下されば幸いです。

 

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photo by 七ツ森  /  material by 素材のかけら
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