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某蛙型侵略宇宙人についての萌え語り&日々のできごとをつれづれと書き記すためのブログ。文やら絵やら、好き放題。
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秋の夜長に虫のさざめく – Ⅱ



 (ⅰ)
 「うむ……やはり紅茶はオランジ星のものに限るね。香りが違う。そうだろう?」
 「はい」
 「この素晴らしさは何に例えればいいだろうね。咲き誇る薔薇の花のようでいて、百合の花のような主張しすぎない奥ゆかしさが……うまくないな、いまひとつだ。あぁ、しかし、一度この星の紅茶を飲んでしまうと他のものを飲むことができなくなってしまうね。ますますこの星が欲しくなった、そう思わないかね、ゼロロ兵長」
 「はい」
 「やれやれ。まったく君という人物は、私が何を尋ねても同じ返答ばかりだ。意見を聞いても必要最低限のことしか口にしない。ユーモアのない男だ。仕事をこなしているだけで十分、それ以上を望むのは欲張りというもの、そういうことかね?」
 「……そのようなことは」
 「イエス以外の君の言葉を聞いたのは久しぶりだよ、ゼロロ兵長」
 バララ中尉は喉の奥で笑った。それを見ているドロロの表情は先程から一向に変わらない。バララ中尉はそれすらも愉快そうに、ただ少しだけ困ったように微笑んで首を振ると、お茶請けのクッキーを指でつまんだ。
 ここはテーノン星雲第7番惑星、通称オランジ星内、ケロン宇宙侵攻軍第二中隊本部テント。
 ドロロがケロン軍第二中隊に異動となったその足でこの星へ来てから、既に1週間が経とうとしていた。オランジ星人は元来穏やかな気性の宇宙人だが、この星の名産である紅茶を取引中のケロン人の商船に一方的に攻撃を仕掛けてきたということで、現在、バララ中尉の指揮の下で侵略作戦の真っ只中であった。オランジ星人の揃える装備は、重要な貿易商品である紅茶を狙う不届き者に対処するために中隊規模のケロン軍のそれを上回るものがあるが、ケロン軍は経験と、そしてドロロという強力な情報収集ツールを武器に対抗していた。当初は拮抗状態が続いていたものの、ここ数日はケロン軍が優勢であり、優雅にティータイムを楽しむ時間の余裕もできたほどだ。
 軽く焼き上げたクッキーの食感に目元を緩ませつつ紅茶の香りを存分に吸い込んでから、バララ中尉は思い出したように一枚の紙片を差し出した。
 ドロロは無駄のない動きでそれを受け取って、書かれている文章を確認してから紙片を返す。
 「明日までだ。ここに書いていることを済ませてもらいたいのだが、できるかね?」
 「問題ありません」
 「では、任せたね」
 「了解」
 青い体が敬礼を返した、それを認識したと思った途端にドロロの気配は薄れはじめ、すぐにわずかな空気の揺れを残して姿が消える。それに遅れて、側で作業していた兵士が顔を上げ、おそるおそる、といった風に詰めていた息を吐き出した。
 「どうかしたかね?」
 「はっ、中尉殿。いえ。アサシンというものは本当にすごいな、と」
 「んん。そうだね。彼はここに来てから全ての任務を成功させているしね」
 「さすがはケロン軍の誇るアサシン……いえ、そのアサシンでもトップをとった男、ということでしょうか。ゼロロ兵長は、今も、まるで魔法のように消えてしまいました」
 「そうだね。だが、アサシンというのは、一様にどうにも気味が悪い」
 バララ中尉は鼻で笑った。
 「ゼロロ兵長。彼は非常に優秀だ。疑問を挟まず任務を受諾し、的確に遂行し、無駄なことをせずに戻ってくる。便利で使い勝手がいいのは確かだ。だが致命的なことに、あまりにも人間味が無いと思わないかね。最近発表された、最新型ロボットの方がまだ感情豊かじゃないかとさえ思うね」
 「あぁ、あのロボは。そうですね。それにしてもあのアサシンのガスマスク、重苦しくて見ているだけで気が滅入ってしまいます。どうにかなりませんかね」
 部下の言葉に笑いながら同意して、バララ中尉は紅茶を飲み干した。そして、カップを戻すと机に積まれていた書類に目を通し始めた。同時に新しく得た情報を伝えようと何人かの通信兵が慌ただしく入ってきて、先程までいた青い影のことなどすっかり忘れてしまったかのように、テントの中は活気を取り戻していった。




 風に木の葉を揺らしながら、一本の大木が空に向かって伸びている。
 その高く伸びた木の頂点に音もなく足をつけると、ドロロはふぅ、と息を吐いた。何気なく口元に手をやり、しばし硬直してから腕を下ろす。そして気怠そうに首を上に向けた。
 オランジ星は、淡橙色の空が美しい星だ。白い雲が姿を変えながら風に流れていく様は、幼い子どもの好みそうな甘いお菓子を彷彿とさせる。だが、常に淡橙色の空は、いくら眺めても心慰められることが無い。気分転換でも、と思い久しぶりに空を見上げたが、かえって胸に痛みを覚えるだけだった。抜けるような青い空を恋しく思っては沈む心を叱咤して、今日もなんとか持ち直す。
 ドロロは固く目を閉じた。
 落ち込んでいる場合ではない。
 地球を恋しく思っている場合ではない。
 自分が居るのは戦場だ。余計な考えは任務の邪魔だ。何度も自分に言い聞かせる。
 ――だがしかし、完全に割り切れるものでもない。
 この星に来てからというもの、一日たりとて地球を思わない日は無かった。愛する故郷に逆らうことになっても守りたい、そうまで決心したほど美しい星。豊かな自然と心優しい人たち。命の恩人であり、また、共に修行を重ね心通わせた大事な仲間、小雪。小雪のことを考えると、つらつらと思い出されるのは忍術修行に励んだ日々であり、それから小隊の皆の顔である。
 「ケロロ君……ギロロ君」
 辺りに気配を感じられないときは、その名前を口に出してみることもあった。
 ドロロは薄く瞳を開き、冷静に周囲の景色を視界に入れながら考えを巡らせる。
 唐突な部隊異動命令だった、と思う。
 もちろん、正式な書状による正規の通達を、末端の一兵士である自分が拒否できるはずもないのだが、だからといって、納得もいっていない。どれだけ、あの場で命令を跳ね除けて、自分は地球に身を埋めるのだと宣言してしまいそうになったことか。どれだけ、突然の命令の理由をケロロに問い詰めようと思ったことか。しかしそれをドロロに躊躇わせたのもまた、ケロロだった。
 これまでも、“アサシントップをとった男、ゼロロ兵長”を、ぜひ自分の部下にしたいといった申し出は数多く持ち込まれてきた。それでも、そういう話は動向を伺って慎重に避けてきたし、強引に小隊まで話を繋げてきた人物に対してはケロロがのらりくらりと断っていた。
 それが今回はケロロ直々の命令である。いつも全身でやかましくしている男が、表情を固くし、硬い声色で――声をかけられることを拒否するような雰囲気を醸し出しながら告げてきた。ドロロの見る限り、何かしらの洗脳術を施されている様子はなかったし、何者かに脅されている雰囲気も見受けられなかったのだから、ケロロの意思によって発せられた命令であることは間違いないだろう。まさか、ケロロがいつまでも地球侵略を邪魔する自分をついに見限ったのだろうか。そう考えるだけで絶望感に襲われる。そんな動揺を態度に表すことなく済んだのも、アサシンとしての訓練の賜物か、とドロロは自嘲するようにひそやかな笑いを風に乗せる。
 一羽の鳥が、軽やかに目の前を横切っていった。ドロロはそれを目で追ったが、それもすぐに見えなくなった。
 ドロロは寒気を抑えるようにして、両腕を体に回す。
 ケロロの真っ黒な瞳を覗き込むのが怖かった。自分を否定するように重く鈍く光るケロロの瞳を見てしまったら、自分は立ち直れなくなる。それで、つい反射的に目を閉じた。そしてそのまま全ての感情を仕舞い込んだ。後に残るのはただ凍て付いた精神。何事にも動じてはいけない、それは例えば強固な氷のように。
 ドロロの青い瞳が険しく細められた。
 何としても理由をつきとめる。
 地球にいたころに比べて今は随分忙しいので、任務に関係の無い情報収集をする余裕はない。しかし、どれだけ時間と手間がかかったとしても、自分が部隊異動させられた理由を――それ以上に、ケロロの真意を突き止めてみせる。ケロロの側にいられなくなってもいい、それがケロロの意思ならば自分は甘んじてそれを飲み込もう。ケロロの判断に自分が従わないことなど無いのだし、部隊が違ってもケロロを守ることはできるのだから。だからせめて、本人の口からそのことを告げてもらいたい。ドロロは、まだどこか虚ろな様子で空を眺める。
 ――ただ願わくは、ケロロ君の身に何もあらんことを。
 ケロロの立場を案じて、ドロロは微かに表情を曇らせた。
 と、その時視界の端に白い煙が見えた。作戦開始の合図である。
 ドロロは即座に思考を切り替える。不必要な思考は瞬時に凍結。必要なのは結果を出すための判断力。ほら、今日も完璧だ。
 必要最小限の動きで、ドロロは木の梢から飛び立った。しかし、未熟にも、一瞬己の感情が揺らいだのを自覚する。
 「……挨拶、しそびれたでござるな」
 もう帰ることのないこの身に、いってらっしゃい、と声をかけてくれた彼らに――。
 はらり、と梢から一枚の葉が落ちていく。
 その木の葉が地面に付くより早く、ドロロは敵陣の最奥へと風のように進入していた。




 「え? ドロロが帰ってこない?」
 「はい……もう1週間になります。学校から帰ったら、荷物がすっかり無くなって――ううん、これ以外無くして、いなくなっちゃって」
 同日、太陽系第3番惑星地球、午後。
 気が塞ぐような薄曇りの中、いつものように小雪と夏美が連れ立って下校していた。いつも、夏美といるときは明るく表情を変える小雪が、だが今日は肩を落とすようにして歩いている。夏美は隣で気遣わしげにしていたが、小雪が差し出したものを見てしばらく考えてから、あ、と声をあげた。そしてそのまま小雪の手に握られたものを指差した。
 「それってもしかして、ドロロがいつも口に巻いてる布?」
 「はい。これ、ドロロの口布です」
 小雪の手の中にある、薄い灰色の一枚の布。それは、ゼロロがケロン軍のマスクを脱ぎ、ドロロと名を変え、代わりに身に着けるようになった口布だった。
 「本当に、これだけ残して……あとは何にも。家の中が綺麗に片づけられて、ドロロの持ち物だけが無くなってたんです」
 「小雪ちゃん、ドロロから何も聞いてないの?」
 「はい。あ、別にちょっとくらい連絡がとれないのは珍しいことじゃないんですよ。忍ですから。でも、そういうんじゃなくて、ドロロは優しいから、いつも一言残してくれたんです。お買い物に行く時も、しばらく留守にするときも、お友達と一緒にいるときも。でも……」
 「今回は何も言わないで、その布だけ残して……?」
 「はい」
 小雪は布をギュッと握りしめる。痛々しい程に落ち込んでいるというのに、それでも自分のこと以上にドロロの身を案じている姿に、こちらの胸まで痛くなる。夏美は慌てた。
 「だ、大丈夫よ小雪ちゃん! きっとまたボケガエル達と何かやってるだけよ、きっとそう! あ、もしかしたらボケガエルに何かイタズラされてて連絡がつかないのかもしれないわ。もう、帰ったらボケガエルのやつ、しめておかなきゃいけないみたい、ね?」
 「夏美さん……」
 夏美が無理矢理明るく言ってみせると、それでも小雪は安心したのか少しだけ笑顔を見せた。それに夏美もほっとする。ちょうどそれぞれの家も見えてきたころだ。
 「とりあえずボケガエル達に聞いてみるわ。何かわかったら、すぐ電話するね、小雪ちゃん。また明日」
 「はい、また明日! じゃあね、夏美ちゃん」
 そのまま夏美は日向家の門を開いた。そして、2人はそれぞれの家に入っていった。






 

Ⅱ(ⅱ)

 



散々紅茶について褒め称えましたが、管理人は圧倒的にコーヒー派です。むしろ紅茶は苦手であまり飲めません。なんでバララさんを紅茶派にしちゃったんだろう(笑)。
ドロロ、一人奮闘中。周りも心配してます。

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photo by 七ツ森  /  material by 素材のかけら
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