(ⅱ)
日向家直通、ケロロ小隊地下秘密基地。作られた当初はシンプルな構造だったこの基地も、無謀無秩序無計画な増改築を施され、今ではちょっとした迷路のようになっている。
その地下基地を迷わずに進む足音がひとつ。その足音の主、日向冬樹は、腕を組んで重い溜息をついた。
「東谷さんのためにドロロのことを軍曹に聞きに行くなら、自分で行けばいいのにさぁ。姉ちゃんったらわざわざボクに行かせるんだから。ヒドイよね、まったく」
ケロロの自室が無人だったので、きっと地下基地にいるのだろう。冬樹はそう検討をつけて、足取りの重いままに基地内の会議室へ向かう。
せっかく自分の部屋でのんびりとオカルト雑誌の最新号を読んでいたというのに。小雪の悩みをケロロに聞くのなら、引き受けた夏美自身が聞きにいくのが筋だろう。学校から帰ってくるなり開口一番、地下基地まで追い立てられてはたまったものではない。まぁ、今日の食事当番は夏美なのだから、手の空いている自分が行かされることも仕方ないのかもしれないけど。
色々と文句を考えつつ歩くが、先程から気分は重くなる一方だ。しかし、冬樹の気を重くしている一番の原因は、これらの文句とは別のところにある。
「……姉ちゃんもわかってるくせに、人に行かせるんだから」
言うと、嘆息。
最近、ケロロ達の様子がおかしいことは冬樹も気づいていた。
ケロロは普段通り家事手伝いをし、漫画を読み、ガンプラを作っている。だが、ふいに厳しい表情を見せるときがあった。それを冬樹が指摘すると、にへら、と笑って何でもないと言いながらそそくさと自室へ引きこもってしまう。なんとなく、いつもと様子が違うのだ。ギロロも銃を手入れする手が止まってぼんやりしているときがあるし、先日など、うっかりと焚き火の火を絶やしてしまい、大慌てしている姿を見た。それに、普段からまず姿を見せないクルルはともかく、西澤家に居候しているタママの様子もおかしいようだ、と、ちょうど昨日桃華から相談を受けたばかりだった。
そこへ追い打ちをかけるような、小雪の言葉。
これで何もないはずがない。
いつもの悪ふざけや、へっぽこな侵略作戦なら問題はないのだけど、でも、たぶんそうじゃない。深刻な事態が発生しているときや身内のトラブルに揉めているとき、彼らは決まって地球人を関わらせないように行動するのだから。
そうこう考えているうちに目的の部屋が見えてきた。
なんとなく緊張した面持ちで、冬樹は扉の前に立つ。スムーズに開いた自動ドアから顔を覗かせて、冬樹はケロロを探す。
「軍曹、いる? ちょっとドロロのことで聞きたいことがあるんだけど……」
「おや! おやおや、冬樹殿! 申し訳ないでありますが、今少々立て込んでおりましてな、用事ならまた後で聞くでありますよー、ってことなんで、御免ねー、またねー、ほいっと」
「え? え? え、ちょ、ちょっと、軍曹!?」
後光の射しそうなほどイイ笑顔でまくし立ててくるケロロに呆気にとられているうちに、有無を言わせぬ強引さでぐいぐいと押されて、冬樹は部屋から外へと追い出された。
そして状況が飲み込めずにぽかんとしている間に部屋の扉は閉まってしまった。慌てて再び近寄るが、自動ドアのスイッチが切られてしまったようで、扉が開く気配はない。
あっという間の出来事である。
参ったな、と冬樹は頭をかいた。
強く拒否されていることを体現するかのような、静まり返った基地の空気。
設備の稼働音だけが静かに聞こえてくる空間にしばらく佇んでいたものの、少なくとも今日はもう話を聞くことができないようだと見当をつけた冬樹は、とりあえず自分の家に戻ることにした。
今の出来事そのままを夏美に話せば、夏美は怒ってケロロの元へ乗り込むだろう。そうすればケロロも話さざるを得なくなるはずだ。だが、冬樹はなんとなくそうする気になれなかった。気軽な気持ちで関わるべきではない、と肌で感じた、あの緊迫した空気。できれば、無理に話を聞き出すことはしたくない、ケロロ達が落ち着いた頃に自分達に話してくれればそれでいい。そのためには、今は誤魔化しておくのがいいだろうけど、どうやって夏美を誤魔化そうか。冬樹はまた別のことで頭を悩ませるハメになり、再び溜息をついて歩き出したのだった。
一方、会議室内には張りつめた空気が流れていた。
互いに向かい合うように寄せられた机に着席するのは4人。いつも静かに参加している青い姿は無く、欠席時の身代わりパネルもない。ポカンと空いたスペースを見つめつつ、ケロロはホワイトボードを背にしてただ静かに着席していた。
ゆらり、と机の一角で赤い帽子が揺れた。
「どうやらポコペン人にも感付かれているようだな。こうなれば、お前がドロロを外した理由がはっきりするのも時間の問題だ。時間を無駄にする前に、いい加減聞かせてもらおうか」
片腕を机に乗せ、身を乗り出してギロロが静かに口火を切る。
極度の怒りを無理に抑え込むと、こうも静かになるのだろうか――低い低い、地の底から響くような低い声である。堪えきれぬ叫びが滲みだしてくるかのような口調に、向かいの椅子に座るタママが身を震わせる。
ギロロやタママの様子とは裏腹に、心ここにあらずといった風で沈黙を貫くケロロ。
入り口に近い席に座っているクルルはだらけた姿勢で自分には無関係とばかりにパソコンをいじっているし、モアは会議が始まる前にお茶を持ってきたきりひっこんでしまい、不在だ。
せめてあの女でもいれば、もう少し違った空気になったかもしれないのに。肝心な時に使えない女ですぅ。
そんなことを考えながら、先程からずっと続いている重苦しい空気に耐えかねて、タママは居心地悪そうに尻尾を動かした。そして、なにもかもが突然にやってきたこの1週間を思い返す。
ある日、地下基地でトレーニングをしていたら突然意識を失った。
目を覚ました時には医務室に寝かされていて、ヤバいガスを吸ったので安静にするように言われた。いきなりヤバいガスなんて言われても、自分は何も話を聞かされていなかったというのに。貧乏くじをひいてしまったような展開に辟易としていたところで、これまた突然聞かされたのは、ドロロがケロロ小隊からいなくなったということ。
(ほんと、寝耳に水って感じですぅ)
タママはこっそりとギロロの様子を伺う。ギロロは怒りのあまり発熱しており、真っ赤な炎が周囲に揺らめいているような感覚さえする。蜃気楼が見えているのはおそらく目の錯覚ではないだろう。普段から不真面目なケロロに対してあれやこれや怒鳴りつけているギロロだが、この件に関しては、一貫して静かにケロロを問い詰める姿が見られるだけだった。しかし、その分、ギロロの胸の底に沸々とした怒りが蓄積されていくようで、それがいつ爆発するか知れなくてタママは気が気ではない。
ギロロが手を固く握ってもう一度口を開く。
「ケロロ」
「だから、その話は、今する話じゃないって言ってるでありましょ。それよりも、今週の侵略作戦でありますが――」
「説明しろと言っている、ケロロ!」
業を煮やしたギロロが、机に握りこぶしを叩きつける。
その音に身を竦ませたタママだったが、おそるおそると言った風にケロロの方を向いた。
「軍曹さん、ボクも聞きたいですぅ。ドロロ先輩のこと、ちゃんとお見送りもしてないし、今どこにいるのかも知らないし、ケータイだって繋がらないですぅ。せめてドロロ先輩が部隊異動をすることになった理由くらいは聞きたいですけど、それも聞いちゃダメなんですか?」
「……」
「軍曹さぁん」
やはり、話すつもりはないらしく、この話題になるとケロロは完全に口を噤んでしまう。
すっかりお手上げの気分で、タママはジュースのカップを引き寄せて、ずるずると音を立てながらストローを吸った。そしてケロロからは視線を外したものの、ギロロに視線をぶつけるのは恐い気がしたので、消去法で仕方なくクルルに目をやった。
いつもと打って変わって静かな態度のケロロとは対照的に、まったくもっていつも通りの様子のクルルである。こんな重苦しい空気の中でもいつもと変わらないこの態度。ある意味凄い、と半ば呆れながら思う。今のクルルはヘッドホンで音楽を聞きながら、パソコンで何か作業をしている。会話に参加してくることもなければ、誰かを茶化すこともない。
と、タママはお菓子に伸ばしかけた手を止めた。
(……あれ? “茶化すこともない”?)
自分の思い至ったことに、はた、とタママは瞬きをする。そして慌ててクルルの方に向かって顔を上げた。
「んぁ? なんだい、タマちゃん。く~っくっくっくっ」
「え、いや、な、なんでもないですぅ、なんでも!」
視線に気づいたクルルに愛想笑いで誤魔化してから、タママはこっそりとケロロとクルルを見比べた。
そうだ。そうだった。クルル曹長という人物は、場が荒れているときにも飄々とした態度を崩さず、それどころか面白がって掻き混ぜてくるような人物だ。しかし、そのクルルが今日は随分とおとなしいではないか――余計な口を挟んでこないのだ。相当わかりにくいが、クルルの様子も“いつも通りではない”ということなのだろう。タママは何か大変な発見でもしたかのように、興味深く頷いた。
一方、ケロロがどうしても話そうとしないことに苛立ちを隠さないまま、ギロロが矛先をクルルに向けた。
「お前はどうなんだ、クルル。何か知っているのではないのか」
クルルはギロロの鋭い視線を受けたにも関わらず、気にしない風に高く笑って、頬杖をついたまま片手をひらひらと振った。
「知ってるかどうかと言われりゃあ知ってる。でも、隊長に話すなと言われたことを話すワケにはいかないんでねぇ。残念でした。せいぜい頑張って隊長から聞き出しなァ。くくく……」
「ええい! 貴様ら、いい加減にせんか!!」
「わわ、ギロロ先輩、ダメですぅ!」
「止めるな、タママ!」
椅子から立ち上がり、今にも二人に殴りかかりそうなギロロをタママは慌てて止める。
しかし、ケロロは見ているだけだし、クルルに至っては挑発するかのように笑うのをやめようとしない。あぁ、この場に足りないものは冷静で大人な常識人だ、と眩暈を覚えながらもタママは必至にギロロをなだめようと試みるが、いかんせん状況が悪すぎる。
「ダメですぅ、ギロロ先輩、落ち着いて下さいですぅ」
「何とか言え、ケロロ! いつまでだんまりを決め込むつもりだ!」
「……」
「おー、こわいこわい。くっくっく……」
「クルル、貴様!」
「ゴルァアア、黄色も煽ってんじゃねぇええ! あぁん、ギロロ先輩、お願いですから落ち着いて――!?」
「!」
裏タママが本気でキレそうになったその時、聞こえた電子音に全員の動きが止まった。
「アラームですぅ!」
「敵襲か!?」
基地中に響き渡る緊急警報のアラーム。
その音に反応してケロロが素早く顔を上げた。同時にクルルがパソコンを操り、準備していたかのようなスピードで部屋の中心に大きくスクリーンを展開する。
絶え間なく更新される各種データと共にそこに映っていたのは、地球に侵入してきた巨大な宇宙船の映像、そして完全武装で続々と降り来る宇宙人の姿。
「これは――……」
「このヒトたち、訓練校で習った覚えがあるですぅ。確か、オランジ星人でしたっけ」
「あぁ。ポコペンの大気圏突入からこっち、迷わず一直線に日向家を――いや、この基地を狙ってきてやがるみてェだな」
クルルがコンピュータを操作しながら答える。
「ソッコーでアンチバリアを強化したが奴らの進路に変更なし。基地の座標は知られてるみてぇだし、あの重装備だし、間違いねぇ。狙いは地球じゃ無くて基地(ここ)だ、くくっ」
「座標が知られているだと? いや、だが、それよりも何故だ。ケロン星とオランジ星は同盟関係にあったはずだろう」
「それはちょっと前までの話であります。1週間前に衝突があってから、オランジ星と我がケロン星は交戦状態にあるでありますよ」
「1週間前、それって……軍曹さん」
ドロロがいなくなったのと同じタイミング。
タママが最後まで口に出さずとも、誰しもが同じことを思い描いた。会議室に、また別の緊張感が漂う。ギロロが、何かを探るような視線をケロロに向けた。
と、緊張した空気を破って小さくクルルの笑い声があげられた。
「基地及び日向家へのバリア展開完了。迎撃システム及び自動反撃システムへの許可、第3レベルまで完了。使用可能武器へのアクセス権全解除、イけるぜェ、隊長」
猛烈な速さでコンピュータを操作しながら、クルルはケロロを見てにやりと笑う。
よろしい、とケロロは隊員に向き直った。
ギロロとタママは息をのむ。
先程までの気の無い様子とは全く違う、強い意思をもった黒い瞳。思わず2人は姿勢を正した。
一方のケロロは大きく息を吸い込む。
「総員、ただちに戦闘態勢! まずは我輩が交信を試みるでありますが、話し合いが不成立、もしくは決裂した場合は速やかに奴らを追い払うであります!」
「了解!」
部下達は敬礼をし、すぐに基地を飛び出して行く。それを見届けると、ケロロ自身も素早く踵を返し、会議室を後にした。
「……って、言ったはいいけど結構キツイですぅ~!」
ソーサーで空を一直線に駆け抜けながら、タママがぼやく。
戦闘準備を整えてソーサーを引っ張り出したところで、早速攻撃を仕掛けられた。話などする気が無いようなのは一目瞭然だ。すぐにギロロと2人で飛び出したが、相手もかなり本気らしく、兵の数も武器の揃えも半端なものではない。先程からタママインパクトを何発も撃っているが、全く敵の数が減ったと思えなくてうんざりする。
「集中しろ、タママ! 右だ!」
声に反応して振り向けば、かなり近くに見えるビーム銃の銃口。
あ、マズイ――そう思った瞬間目の前の敵に別の方向からビームが当たり、こちらを狙っていた銃の持ち主ごと落下していった。
「油断するな、タママ」
「ありがとうですぅ、ギロロ先輩」
隙のない構えで銃の狙いをつけながら、ギロロが飛行ユニットを操作してタママの近くに寄る。そして軽く舌打ちをすると軍帽に手を当てた。
「クルル! 反撃システムを出し惜しみするな、フルに使え!」
『く~っくっく……俺様がそんなケチな男に見えるかい? とっくに全開っスよ』
「くそ! 数が多すぎるぜっ」
ギロロは使い慣れたハンドガンを自分専用武器庫に放り込むと、その手で大型のランチャーを取り出して、構えた。
「ただ数が多いだけならこれでなんとかなるんだがな……」
狙いを定めて引き金を引く。連続する大きな反動を全身で受け止めながら弾の行先に目を凝らすと、敵の乗っている宇宙船に全弾命中したのが確認できた。
しかし、ギロロは面白くなさそうに口の端を歪めた。
「ちっ。やはりか」
『時代遅れの、対物理攻撃超強化型装甲でありますか……あーもう、今のウチじゃあ相性最悪だっつのっ』
ケロロの声が通信機から聞こえた。ギロロは内心で頷きながら武器を中型のビームライフルに持ち替える。
実体弾とビーム弾の使用される比率が同率――いや、ビーム弾の割合の方が多くなってきている近年、ビーム攻撃への防御を疎かにして物理攻撃への耐性に特化した装備を採用する星はごく稀だ。ほとんどないと言ってもいい。しかし、現在の交戦相手はそのごく稀な星のひとつであるようで、ひたすらに物理攻撃への耐性を強化した装備をしている。
対物理攻撃超強化型装甲を備えた敵を相手にしたときの対処のセオリーは何か。
それは、実体弾を使わずに、ビーム弾・ビーム砲で攻撃することだ。
至極単純な話だが、それも有効となるのは互いの装備が同程度のレベルの時の話である。今の状況は、こちらは一人一人の能力が高いとは言えわずか4人、おまけに小隊の編成は不完全だし、対する敵は中型宇宙船が4隻に大型空母まで控えていて物量では圧倒的に不利だ。更に、現在のケロロ小隊の装備とは相性の悪い装備品を集中的に揃えられているおかげで、万遍なく用意されたギロロの手持ちの武器のうち実体弾はほぼ無意味となった。もちろん、強い衝撃を与えるので気持ちばかりの足止めにはなるのだが、これだけ敵の数が多いと足止めなど意味をなさない。
タママが喚く気持ちもわからないでもないな、とギロロは思わず渋面を作った。しかし、ややうるさすぎると思い直し、後で説教をしようと心に決めながらタママの背後に回った敵を撃ち落とした。
「あぁん、ビーム銃が足りないですぅ! てか埒があかねぇんだよ! クルル先輩、ロボは使えないですかぁ?」
『喜べ、こないだの事故の影響で整備中だ』
「どうしてこう肝心なときにー! くっそ使えないですぅ!」
タママインパクトを放ちながらタママが悪態をつく。
「タママ、飛ばしすぎちゃダメでありますよー」
「まだまだイケるですっ、……あ、軍曹さんありがとうですぅ!」
ケロロがソーサーに乗って合流してきて、タママに基地から背負ってきたビーム砲を投げて寄越した。タママは笑顔でそれを受け取ると、躊躇せずに敵の密集している場所へ向けて撃ちこんだ。
タママの撃ったエネルギー波によって敵兵の集団が西澤家敷地内へ落ちていくのを確認し、ギロロは今度はこちらに近づいてきたケロロからビーム銃のエネルギーカートリッジを受け取りながら尋ねる。
「どうだ、様子はっ」
「さっきから変わんないでありますなッ」
そして同時に相手の背後の敵を撃ち落とすと、目を合わせてにやりとする。
「ポコペン侵略じゃなくてケロン軍(ウチ)狙いの攻撃だから宇宙警察は出てきやしないだろうしさっ。とりあえずここじゃポコペン人に気付かれる恐れもあるし、クルルの準備ができ次第“アレ”に引きずり込む、でありますから……って、あーもう鬱陶しい、ゆっくり命令も出せやしないっつの! 多いし固いし面倒くさいし、こういうときにドロロのありがたみを思い出す、でありますなっ」
よく狙い、確実に敵にビームを当てながらケロロがぼやく。
「そのことだが、いつになったら説明するつもりなんだ、貴様はっ。いや、こうなりゃ説明もいらん、土下座でも何でもしてとっととドロロを連れ戻して来い! そろそろ洒落にならんぞっ」
無造作に連射しているように見えるが、一発も撃ち漏らすことなく敵に命中させながらギロロが怒鳴った。
色々とセオリーの効かない敵を相手にしたときに頼りになるのが、ケロロの言葉で言うと“チート級”の強さを持つ、ドロロ兵長だ。
戦場を縦横無尽に飛び回って武器を破壊し、特に装甲の固い敵から戦闘不能にしていく。彼の刀に斬れないものはないし、ビームだって跳ね返してしまう。その身から繰り出される忍術やアサシンマジックは常識という物差しから大きく外れていて、なにそれ反則、と突っ込みを入れたくなる程の強さだ。ギロロはこれまでドロロの立ち回りを低く評価してきたつもりはないが、こうして苦戦しているときなど、彼の存在の大きさを痛感する。まぁ、それを意識すると同時に少々悔しい気持ちも湧いてくるのだが、そんなことを考えられるうちは自分も余裕があるのだろう、と、ギロロは愉快気に笑みを漏らした。
「もうすぐであります」
「何?」
カートリッジを交換しながらケロロが呟く。その瞳がいつになく焦りと本気の色を含んでいることに気付いて、ギロロは口を閉じた。
「もうすぐでありますよ。もうすぐ。きっとね……」
「……まぁ、せいぜい急いでもらいたいものだな。その前にこの状況を乗りきることができれば、の話だぜ」
「そうねェ。さすがに、久しぶりに、ちょぉーっと、ヤバいでありますからなぁ」
ケロロは敵に狙いを定めると、言葉とは裏腹に、にやり、と不敵に笑った。
そしてタイミングをはかり――力強く引き金を引いたのだった。
→Ⅲ(ⅰ)
皆、それぞれの場所で奮闘中。戦闘シーンってむずかしいです。でも好きです。