(ⅱ)
「っしゃー! 獲ったぞぉぉおおお!!」
「ごくろーさん。んじゃ、さっさと前線に戻ってくれます?」
「隊長使い荒いなァ、黄色君!」
「名前で呼べ、うぜぇ」
ケロロ小隊地下基地で、ケロロが満面の笑みを浮かべて高く飛び上がっていた。
全ての始まりは、1週間と少し前のクルルからの呼び出しからだった。何事かと首を傾げながらラボへ行ってみれば、黄色い手に差し出されたものはアナログな一通の通達。また本部から侵略の催促状が来たかとも思ったが、すぐにその可能性は否定した。いつもはケロロに見せるまでもなくクルルやモアが処理してくれていたし、それに何より、ケロロは無性に嫌な予感がしたからだ。
果たしてその予感は大当たり。“ゼロロ兵長”の部隊異動命令が届いていた。
ケロン軍においてアサシンは、その訓練の苛酷さや、そもそも適性が合わないなどの事情から絶対数が少ない。主な任務内容とも相まって、アサシンの基本は単独行動である。しかし戦闘、諜報両分野において優れた能力を有するアサシンを独占使用したがる部隊は後を絶たず、1小隊、僅か5人のうちの1人にアサシンが組み込まれたとなればしばらく噂話の主役を張り続けるほど贅沢な話であるのだ。ドロロはその精鋭の中でもトップの実力者ということで、実際にケロン星に居た頃は休む暇なく任務に駆り出されていた。しかし、ドロロは“既にアサシンではない”というのに――ケロロは信じられない思いで首を振った。このケロロ小隊において、ドロロは小隊のアサシンとしてではなく、幼馴染として、気の置けない戦友としてケロロ達を支えてくれている。大切な仲間を誰が手放すものか。それに、アサシンが欲しいのならば、本部に要望を出して現役のアサシン兵を獲得すればいいのだ。任務遂行中の余所の隊から、アサシンから流れたしがない一般兵を自らの部隊のアサシンとして引き抜こうなど、筋が通らない上にあつかましい。
勘弁してよ、と愚痴を溢しながらも、ケロロは慌てて根回しを図ったり強力なガスを使ってポコペン侵略を済ませてしまおうとしたりしたのだが、いずれも失敗に終わってしまった。結局、ドロロが他人に奪われていくのを目の前で見せつけられる、という非常に苦い結果となったのだった。
「いやぁ、ホントよかったであります。でも、ちょっと無理させちゃったでありますかな。ゴメンねー、クルル曹長」
「まったくだ。お陰で秘蔵のゆすりネタが随分と減っちまったしなァ……この借りはぜってー返してもらうぜぇ、た・い・ちょ・お。それはさておいて、オッサンや日向冬樹達への言い訳でも考えといた方がいいんじゃねぇの?」
「うっわ。赤ダルマはともかく、冬樹殿にはどう言ったもんでありますかなぁ。こんなドロドロの根回しアンド探り合いなんて、未来ある青少年にはちょっと見せたくないしねー」
大事なモノが奪われた。奪われたものは奪い返す。指をくわえて見ているという選択肢は、ケロロの中から当然除外されている、が、しかし肝心の手段はどうやって。それを考えていた時、クルルが舌打ちをして、届いたばかりの一通のメールをケロロに見せた。バララ中尉がケロロ小隊地下基地から離れた直後にクルルの個人回線に宛てられたメール、その内容をざっと確認したケロロはこめかみに手をあてて目を眇めた。
差出人はアンノウン。しかしこの文章の癖は知っている。
ケロン軍大佐。ずいぶんと地位の離れた、ケロロ軍曹の遥か上官にあたる人物だ。
度重なる侵略の催促を受けるうちに今ではすっかり顔馴染になってしまったケロロと、元の階級の関係で以前から親交のあったクルル。知り合ったきっかけも交流の深さも違うが、大佐が信用のおける人物だという評は2人の間で一致した。そんなことを話し合う間にもクルルは熱心にキーボードを叩き、このメールの本当の用件の解読を進めていた。一見するとただの世間話にしか見えないが、そんなものをわざわざ名を伏せて送ってくる理由はない。内容の薄く見える文章に巧妙に隠された情報、それはこの件に関するバララ中尉の一連の動きだった。最近急激に名を上げたバララ中尉の、そのあまりの性急さを怪しんだ大佐が掴んだ情報。それは、バララ中尉が己の手柄のために本分を超えて地球侵略をしようとしていること、そして、これまで友好な関係を築いていたオランジ星に先に攻撃を仕掛けたのは、ケロン軍が先であったこと――その指示を出したのがバララ中尉その人であるらしいということである。
本来、戦うべき理由のない戦争を仕掛けたバララ中尉の罪は軽くない。これをきっかけとして、利己的な行動が目に余るようになってきたバララ中尉に“少々痛い目を見てもらうつもり”であった大佐だが、大佐がこのことを調べ上げるために使った手段もまた正攻法と言い切るには紙一重のものに過ぎた。自分が動けないのならば、代わりに誰かを動かそう。それには思惑が一致する、口の固い人物が良い。できれば動向が掴まれにくいようにケロン星から遠く離れていればいるほど、尚良い――その結果、ケロロに白羽の矢が立てられたのだった。
バララ中尉を失脚させるための筋書きは完成している。後は裏を取るだけだ。一番最後で、一番シンプルで、そして一番重要な役割を頼みたい。バララ中尉のしたことさえ明らかになれば、強引に決定されたゼロロ兵長の処遇は元通りになるだろうから……そこまで声に出して読んでから、クルルは再び舌打ちをした。そして、ケロロに向き直る。
隊長。クルルに呼びかけられ、ケロロは頷いて、真正面からクルルと向かい合った。クルルは肩を竦めてメールソフトを立ち上げ、新規作成ボタンを押した。そして、ギブアンドテイクのバランスを取るためには仕方がない、と文句を言いつつ、クルルの握るとっておきの裏情報を幾つか文面に隠して盛り込みながら、了解のメールを作り上げて送信した。
ドロロを取り戻す算段は付いた。いよいよ迎えた大詰めは、相手の動きを逐一把握して、こちらの動き出しのタイミングを逃さないようにしなくてはならない。ケロロはこの1週間、クルルに通信を傍受してもらいながらずっと動向を伺っていた。かなり微妙で繊細な事案だったため、どうしても部下に説明できなくてもどかしい思いをさせてしまったのが心苦しいが、おかげでこうして実を結んでくれた。
終わり良ければ全てよしと昔から言うし、などと言いながら、ケロロは緊張感の無い顔でクルルの肩を叩いた。
「まぁ、こうして全て丸く収まったんだから、あの赤いのも納得してくれるでありましょう」
満足そうに頷くケロロを、クルルが心底呆れた表情で見やる。
「だから全然収まってねぇって。どうすんスか、オッサン本気でキレてるぜ……普段は地獄耳のくせに、今はすっかり聞く耳持っちゃいねェよ、あの人」
「げ、マジ?」
「基地の防衛システムだっていい加減弾切れなんで、とっとと出てって敵の数減らしてきてほしいんスけど」
「り、了解であります! やっべ、忘れてた……」
「あり得ねぇだろ常識的に考えて……ん? おい、隊長、待った」
「ゲロ?」
クルルは画面の右上にパッと現れたウインドウを確認すると、ラボから飛び出しかけたケロロを呼びとめて、コントロールパネルを手元に引き寄せ猛烈な勢いで操作を始めた。そして間もなく基地に緑色のランプが点灯した。
「よっしゃ、ケロン軍所属の小型宇宙船一隻、ポコペンの大気圏内に突入確認。ここまで来れば誰とでも通信を繋げる。ってことで、あー、あー、テステス。本日は快晴、流れ弾に注意ってとこだぜェ……聞こえますか、ドロロ先輩」
『聞こえるでござる、クルル殿。隊長殿もそこにいるでござるか?』
「きゃー! ドロロ! 本当にドロロだよね! いるいる、いるでありますよ。今回はすまなかったでありますなぁ。てか、あのさ、お前。アサシンマジックの、えーと、波長? の、話? ちょっと後で詳しく聞かせてもらうであります、なんか怖いんだけど」
『……』
「え、無視!?」
「悪りぃ、ノイズが入った」
「ひどいな黄色君!」
「だから色呼びすんなっての、うぜぇ」
『……殿? クルル殿? 状態が少々……でござ……な』
「少々お待ち……すぐ調整するぜぇ」
クルルが機械をいじるのを横目に見ながら、ふと、ケロロは気恥ずかしそうに頬をかいた。
「あー……ドロロ?」
『にん?』
「……お前さんが無事でよかったであります。取り返すのが遅くなって、すまなかったでありますな」
『隊長殿……』
「で、さ。すまないついでに頼みがあんだけど、いい?」
夕食にも、結局ケロロは姿を見せなかった。
そのことで頭を悩ませながら、冬樹はケロロの自室の前で腕を組んで立っていた。よし、と一声、自分に勢いをつけて、再びケロロの部屋の扉に手をかけた。と、その時同じタイミングで内側から扉が引かれて、冬樹は思わずつんのめった。
「わ、うわっ!?」
「おやこれは冬樹殿? 大丈夫でありますか」
ケロロは慌てて冬樹に手を差し伸べる。その手を掴んで、冬樹はバツの悪い顔を浮かべた。
「あ、ごめんね、軍曹。あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど――」
「ゲロ。奇遇であります。我輩も冬樹殿に頼みたいことがあるのでありました。夏美殿と小雪殿に、もうすぐドロロが帰ってくるとお伝え願いたいのであります」
「え、やっぱり、ドロロはどこかに行ってたの? それに、もうすぐ帰ってくるって、それって」
「ちょっとした野暮用でありますよ。ちょっとした。でも間も無く地球に着くと思うでありますから。心配ご無用であります。それでは、我輩もちょっと用があるゆえ、失礼するであります!」
ピシっと軽やかに敬礼して、ケロロは日向家の玄関へと走って行った。
そのままぴょこんと外へ飛び出す姿を見送って、冬樹は気の抜けた笑いを漏らす。
その時、玄関の音に反応して夏美が部屋から顔を覗かせた。
「あれ? 冬樹が出ていったのかと思ったんだけど、違ったの?」
「姉ちゃん。僕じゃなくて、軍曹がお出かけしたんだよ」
「あ! そうよ、そのボケガエル。結局ドロロがどこにいるのか聞けた? 小雪ちゃんがすごく心配してるんだもの、教えてくれないとひどいわよ!」
腰に手をあてて怒る夏美を見て苦笑しながら、冬樹はケロロの出て行った姿を思い返した。そして微笑むと、夏美を宥めながら居間に入る。
「軍曹は、ドロロはもうすぐ戻ってくるから心配しないで、って言ってたよ。たぶん大丈夫だよ」
だって、ああいう風に軽く飛び跳ねているときの軍曹は、とってもいいことがあったときだから。
冬樹はくすくすと笑って、続く言葉を飲み込んだ。
『――ってワケだから、基地じゃなくて直接西澤タワーに向かってほしいであります。クルル時空は大きめに展開してあるから、たぶんすぐにわかると思うけど』
「その中で戦闘中ということでござるな」
『ポコペン人に影響の出ないようにしようと思うと、今打てる手がそれくらいしかなくってさぁ。我輩達だけで、なんとかメイン部隊を時空に引きずり込んだんでありますよ。頑張ったっしょ! あちらさんの狙いは基地だから遠い場所に誘導もできない上に、何せ、ほら。赤いのが沸騰してたから、そりゃ急いだワケよ』
「あぁ。それは」
ドロロは苦笑して、宇宙船の速度を調整しながら通信を続ける。宇宙を飛んでいるうちはいいのだが、地球の大気圏に突入してからはそれまでのような高速操縦ができないので――あまり速度が速いと空気の動きを地球人に観測されてしまうことがあるので、宇宙法に基づいた制限速度が厳しく設定されているためだ――航行速度を調整する必要があるのだ。
制限速度まで速度が落ちたことを確認して、ドロロは一息ついた。
「了解したでござる。現在の戦況は」
『タママはタワー周辺でクルル時空から逃げ出してきた敵兵を攻撃したり、クルル時空に押し戻したりしてるであります。あと西澤家の防衛も、でありますな。クルルは敵母艦のシステムを乗っ取るとか言って、ラボに閉じこもっちゃったであります。そんで、我輩はタママを援護しながら一緒に戦闘中~、っと』
なるほど、会話の合間にビームの飛び交う音が微かに聞こえる。タママインパクトが発射された音も。しかし、普段ならば必ず聞こえる、戦場でもよく通るあの声が欠けている。
「そして、ギロロ殿がクルル時空で一人で戦っているということでござるな」
『そういうこと。敵兵の9割は中にいると思うであります。赤ダルマったらさァ、最近お前がいないことで相当ストレス溜めてたみたいでさ、もう本当に大暴れしちゃって。すっごいの』
「そ、そうでござるか」
ギロロが大暴れする図というのは想像に難くない。というか、過去の“大暴れ”を思い出すだけでぞっとするくらいだ。確かに、そんな状態のギロロを地球の市街地に放しておくのは危険極まりない、と、地球防衛の立場から、ドロロはクルル時空を展開した判断に感謝した。
そうこうしているうちに西澤タワーが見えてきた。近付くにつれて周囲を飛び交う緑色と黒色の点を見つけて、知らず安心感を覚える。と、ケロロ達もドロロの乗る宇宙船に気が付いたようで、油断なく辺りを警戒しながらも普段通りの気軽さで手を振ってきた。
タワーの近くに宇宙船を停めて、ドロロは外に出る。
時は夕刻、沈みゆく夕日が紅葉に染まる町を更に鮮やかに赤く染めていた。
「隊長殿、タママ殿!」
「お疲れさん、ドロロ!」
「わーい、ドロロせんぱーい!」
心からの笑顔で手を振ってくるタママに同じくらいの笑顔を返してから、ドロロはケロロの方を向いた。そして何かを思いついたように、少しだけ不満げな表情を作る。
「拙者、隊長殿に見限られたのかと思って、肝を冷やしていたでござるよ」
「まっさか! ありえないでしょ、そんなん……あ、でも今日の働きによっては、そうなるかもネェ~? だから頑張ってお仕事してきてほしいでありますヨッ」
「おお、恐い。それは力を尽くさねば。して、空母は落とさなくて良いのでござるな」
「うん。つか落とさないでおいてやって。我輩達の目的は勝利じゃなくて、防衛でありますから」
「承知致した。では、拙者、このままギロロ殿と合流するでござる」
「よろしくであります」
笑い合い、互いに敬礼を返し合うと、ドロロは大気の歪み――クルル時空の入り口をキッと見据えて、迷わずに飛び込んでいった。
時空をまたぐ一瞬、空気が変わったような揺らぎを感じる。が、一瞬後には心地良いジメジメとした湿気に気分が高揚するのがわかった。
ドロロは足取りも堅実に荒涼とした風景の中に降り立ち、体の調子を確認する。
そして目的の人物を探そうと顔を上げた直後、すぐ近くで大きな爆発がおこり、慌てて飛び退りながら刀に手をあてがった。煙の中、目を凝らすとそこには色付いた秋の葉よりも、そして沈みゆく夕陽よりも赤い影。ドロロは思わず口元を緩めてしまったが、次の瞬間、構えた刀を煌めかせて周りを囲んでいた敵を一蹴した。敵が自分との距離を取ったことを確認し、赤い影へと飛び寄る。
青い閃光に気付いた赤い影も口元を笑みの形にさせて近寄り、すぐに2人で背中合わせになった。
「貴様、他所の星で随分と活躍してきたようではないか。その勢いで、コイツらもまとめて蹴散らしてほしいもんだな」
武器を構えて敵との間合いをはかりながら、ギロロが言う。
「ギロロ殿こそ、今日は随分と調子が良いようにお見受けする。そのような武器を持ち出して、このくらい一人で片付けられると言わんばかり」
同じく敵の動向に目を配りながらドロロも答える。
ギロロがフン、と鼻を鳴らした。
「普段使わないような大物も、たまには使ってやらんといかんだろう。武器の状態も俺の腕も鈍ってしまうからな――だが、やはり俺にはこちらの方が性に合う」
そう言うと、ギロロは見た目には軽々と抱えていたロケットランチャーとガトリングを放り投げ、愛用の小銃を取り出して構えた。
ドロロはちらりと振り返り、見慣れたギロロの姿に目を細めたが、自分も懐から手裏剣を取り出して構える。
「腕が鈍るなど、謙遜も過ぎると嫌味でござるよ。しかしやはりギロロ殿は、その姿が、一番、佳い」
「貴様がそこにいるのならば、俺が大物を持ち出す機会も必要もないだろうが。だからこれくらいが丁度いいんだ。……なんだ、その呆けた顔は」
「え、いや、なんか恥ずかしいなぁって――」
と、いい加減、目の前で呑気な会話を繰り広げられていることにしびれをきらせた敵兵の一人が2人に銃を向けた。
その途端、表情を一変させて完璧な戦闘モードとなった2人が、オランジ星人に全軍撤退を決断させるまでそう時間はかからなかった。
「ドロロ」
「おや。これはギロロ殿」
戦いも終わって時刻は既に夜。
空高く、明るく輝いている月を眺めていたドロロは、呼ばれた声に反応して視線を屋根の下に向けた。
ドロロと目が合って、ギロロが笑みを浮かべた。ソーサーを動かして屋根まで上がってくる。ドロロのすぐ傍でソーサーから降りると、そのまま隣に腰をおろした。
ギロロはドロロに倣って月を見上げた。
「忍者娘が心配していたそうだが、もういいのか」
「小雪殿には挨拶が済んだでござるから、もういいのでござるよ。互いの行動を逐一把握し合わなければならない間柄でも無いでござるゆえ」
「そういうものか」
「そういうものでござる。あぁ、そうだ。ギロロ殿。夏美殿にも心配と迷惑をかけてしまったようで、申し訳ない」
「お前が謝ることではない。それに俺に言われても困る」
「そうでござるか」
「ああ、そうだ」
沈黙が降りる。
秋の夜風は涼しく、元気に鳴く虫の声で存外に賑やかだ。
「……時に、バララ中尉の処遇は」
「あの派手な色をしたのは、バララと言うのか。さぁな。珍しくアイツらが真面目に仕事をしているみたいだから、まぁ、な」
「推して知るべし、ということでござるな……南無」
ギロロは神妙な様子で手を合わせるドロロに苦笑しながら、月を眺める。今夜の月は、煌々と白く、美しい。
「……まだでござったな」
ぽつり、とひとり言のように呟かれたドロロの言葉を拾い漏らさずに、ギロロはドロロに視線を向けた。
そこにあったのは青い瞳。
夜空を見ているとばかり思っていたドロロの視線が自分に向けられていたことに気付いて、思わずどきりとする。透き通った柔らかな青色に魅せられる。
ギロロが内心焦っているうちに、ふっとドロロははにかんだように目を伏せて、それからおずおずと顔を上げた。
「ギロロ殿。拙者、まだ言ってなかったでござる」
「な、何がだ」
「帰りの、挨拶を。君に。わざわざ言うのも変かもしれないけど、言いそびれるのも嫌だし。だから」
ドロロはふわりと微笑んだ。
「ただいま、ギロロ君」
ギロロは一瞬呆気にとられたものの、すぐに優しく瞳を細めた。
「……あぁ、おかえり、ドロロ。どうだ、この間の話の続きでもするか?」
「ふふ。それもいいけど。折角だから、拙者が居なかった間の話が聞きたいでござるなぁ」
「そうだな。俺もあの事故のことはいい加減思い出したくないし、その方がいい。さて、何から話そうか――――」
ギロロは笑顔を浮かべて、月に目を戻す。
ドロロもそれを追って月を見つめる。
虫の声のさざめく夜。果てなく広がる空が2人を柔らかく包んでいた。
(2011.11.18)
蝉の声を聞きながら書き始めた文章が、初雪と共に完成。長かった、色んな意味で!
今回のテーマはビー・コネクトの仕様について+ギロドロ風味、でした。
暗殺兵術ビー・コネクト、別名ケロロ君専用超追跡(ストーカー)術。ドロロは“ケロロ小隊のピンチ”というより“ケロロ君のピンチ”に敏感に反応していると思うんです。軍曹は怒ってもいいと思うし、怒る気力も無くドン引きしててもいいですね。
ビー・コネクトは、表紙絵(コンセプトイラスト)では蝶を飛ばしていますが、どちらかというと昆虫以外の虫のイメージです。昆虫ならテントウムシかな。でもメインはムカデとかゲジゲジとか、いや~~な感じの虫。おぞましい。近寄りたくない。そういうモノこそ身に這わせ、手足の様に駆使する、そんな。自分で絵にはできませんでしたが。
今回の敵役、バララさんは今回こっきりの登場ですが、中々おもしろいキャラになったと思います。展開をまとめていくうちにかなり悪いヒトになってしまったのが少し残念。
それから、ドロロ=ゼロロは、あくまで一般兵である、アサシン畑出身だしその能力をフル活用しているけどそれでもあくまで一般兵であって、今はもうアサシンではない。そういうスタンスで構築してみました。と言っても、考えすぎて途中からだんだんわからなくなってきましたが、とりあえずこれからも当サイトはこういう姿勢です、たぶん。ドロロが一般兵であることについては、また別の形で語ると思いますが、例えばクルル“曹長”のような理由なんじゃないかと思っています。とりあえずアサシン部隊の捏造が激しいですね。構成人数は多くないだろうなと思います。精鋭と言われるくらいですし。ゾルル兵長は実質的階級が無効ということなので、ガルルが個人的に拾ってきたのかなーと思っています。どこで拾ってきたんだろう、気になる。
途中まで大したギロドロしてないのに、最後で急にいい雰囲気になって焦りました。そして、ラストのいいムードよりも一緒にバトルしてるシーンの方がギロドロらしくて好きです。燃えます。ドロロ合流前の小隊4人バトルなトコロも好きです。伍長、ラブラブはしばらく我慢しておくれ……。
読んで下さってありがとうございました。