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某蛙型侵略宇宙人についての萌え語り&日々のできごとをつれづれと書き記すためのブログ。文やら絵やら、好き放題。
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 (ⅱ)
 「っしゃー! 獲ったぞぉぉおおお!!」
 「ごくろーさん。んじゃ、さっさと前線に戻ってくれます?」
 「隊長使い荒いなァ、黄色君!」
 「名前で呼べ、うぜぇ」
 ケロロ小隊地下基地で、ケロロが満面の笑みを浮かべて高く飛び上がっていた。
 全ての始まりは、1週間と少し前のクルルからの呼び出しからだった。何事かと首を傾げながらラボへ行ってみれば、黄色い手に差し出されたものはアナログな一通の通達。また本部から侵略の催促状が来たかとも思ったが、すぐにその可能性は否定した。いつもはケロロに見せるまでもなくクルルやモアが処理してくれていたし、それに何より、ケロロは無性に嫌な予感がしたからだ。
 果たしてその予感は大当たり。“ゼロロ兵長”の部隊異動命令が届いていた。
 ケロン軍においてアサシンは、その訓練の苛酷さや、そもそも適性が合わないなどの事情から絶対数が少ない。主な任務内容とも相まって、アサシンの基本は単独行動である。しかし戦闘、諜報両分野において優れた能力を有するアサシンを独占使用したがる部隊は後を絶たず、1小隊、僅か5人のうちの1人にアサシンが組み込まれたとなればしばらく噂話の主役を張り続けるほど贅沢な話であるのだ。ドロロはその精鋭の中でもトップの実力者ということで、実際にケロン星に居た頃は休む暇なく任務に駆り出されていた。しかし、ドロロは“既にアサシンではない”というのに――ケロロは信じられない思いで首を振った。このケロロ小隊において、ドロロは小隊のアサシンとしてではなく、幼馴染として、気の置けない戦友としてケロロ達を支えてくれている。大切な仲間を誰が手放すものか。それに、アサシンが欲しいのならば、本部に要望を出して現役のアサシン兵を獲得すればいいのだ。任務遂行中の余所の隊から、アサシンから流れたしがない一般兵を自らの部隊のアサシンとして引き抜こうなど、筋が通らない上にあつかましい。
 勘弁してよ、と愚痴を溢しながらも、ケロロは慌てて根回しを図ったり強力なガスを使ってポコペン侵略を済ませてしまおうとしたりしたのだが、いずれも失敗に終わってしまった。結局、ドロロが他人に奪われていくのを目の前で見せつけられる、という非常に苦い結果となったのだった。
 「いやぁ、ホントよかったであります。でも、ちょっと無理させちゃったでありますかな。ゴメンねー、クルル曹長」
 「まったくだ。お陰で秘蔵のゆすりネタが随分と減っちまったしなァ……この借りはぜってー返してもらうぜぇ、た・い・ちょ・お。それはさておいて、オッサンや日向冬樹達への言い訳でも考えといた方がいいんじゃねぇの?」
 「うっわ。赤ダルマはともかく、冬樹殿にはどう言ったもんでありますかなぁ。こんなドロドロの根回しアンド探り合いなんて、未来ある青少年にはちょっと見せたくないしねー」
 大事なモノが奪われた。奪われたものは奪い返す。指をくわえて見ているという選択肢は、ケロロの中から当然除外されている、が、しかし肝心の手段はどうやって。それを考えていた時、クルルが舌打ちをして、届いたばかりの一通のメールをケロロに見せた。バララ中尉がケロロ小隊地下基地から離れた直後にクルルの個人回線に宛てられたメール、その内容をざっと確認したケロロはこめかみに手をあてて目を眇めた。
 差出人はアンノウン。しかしこの文章の癖は知っている。
 ケロン軍大佐。ずいぶんと地位の離れた、ケロロ軍曹の遥か上官にあたる人物だ。
 度重なる侵略の催促を受けるうちに今ではすっかり顔馴染になってしまったケロロと、元の階級の関係で以前から親交のあったクルル。知り合ったきっかけも交流の深さも違うが、大佐が信用のおける人物だという評は2人の間で一致した。そんなことを話し合う間にもクルルは熱心にキーボードを叩き、このメールの本当の用件の解読を進めていた。一見するとただの世間話にしか見えないが、そんなものをわざわざ名を伏せて送ってくる理由はない。内容の薄く見える文章に巧妙に隠された情報、それはこの件に関するバララ中尉の一連の動きだった。最近急激に名を上げたバララ中尉の、そのあまりの性急さを怪しんだ大佐が掴んだ情報。それは、バララ中尉が己の手柄のために本分を超えて地球侵略をしようとしていること、そして、これまで友好な関係を築いていたオランジ星に先に攻撃を仕掛けたのは、ケロン軍が先であったこと――その指示を出したのがバララ中尉その人であるらしいということである。
 本来、戦うべき理由のない戦争を仕掛けたバララ中尉の罪は軽くない。これをきっかけとして、利己的な行動が目に余るようになってきたバララ中尉に“少々痛い目を見てもらうつもり”であった大佐だが、大佐がこのことを調べ上げるために使った手段もまた正攻法と言い切るには紙一重のものに過ぎた。自分が動けないのならば、代わりに誰かを動かそう。それには思惑が一致する、口の固い人物が良い。できれば動向が掴まれにくいようにケロン星から遠く離れていればいるほど、尚良い――その結果、ケロロに白羽の矢が立てられたのだった。
 バララ中尉を失脚させるための筋書きは完成している。後は裏を取るだけだ。一番最後で、一番シンプルで、そして一番重要な役割を頼みたい。バララ中尉のしたことさえ明らかになれば、強引に決定されたゼロロ兵長の処遇は元通りになるだろうから……そこまで声に出して読んでから、クルルは再び舌打ちをした。そして、ケロロに向き直る。
 隊長。クルルに呼びかけられ、ケロロは頷いて、真正面からクルルと向かい合った。クルルは肩を竦めてメールソフトを立ち上げ、新規作成ボタンを押した。そして、ギブアンドテイクのバランスを取るためには仕方がない、と文句を言いつつ、クルルの握るとっておきの裏情報を幾つか文面に隠して盛り込みながら、了解のメールを作り上げて送信した。
 ドロロを取り戻す算段は付いた。いよいよ迎えた大詰めは、相手の動きを逐一把握して、こちらの動き出しのタイミングを逃さないようにしなくてはならない。ケロロはこの1週間、クルルに通信を傍受してもらいながらずっと動向を伺っていた。かなり微妙で繊細な事案だったため、どうしても部下に説明できなくてもどかしい思いをさせてしまったのが心苦しいが、おかげでこうして実を結んでくれた。
 終わり良ければ全てよしと昔から言うし、などと言いながら、ケロロは緊張感の無い顔でクルルの肩を叩いた。
 「まぁ、こうして全て丸く収まったんだから、あの赤いのも納得してくれるでありましょう」
 満足そうに頷くケロロを、クルルが心底呆れた表情で見やる。
 「だから全然収まってねぇって。どうすんスか、オッサン本気でキレてるぜ……普段は地獄耳のくせに、今はすっかり聞く耳持っちゃいねェよ、あの人」
 「げ、マジ?」
 「基地の防衛システムだっていい加減弾切れなんで、とっとと出てって敵の数減らしてきてほしいんスけど」
 「り、了解であります! やっべ、忘れてた……」
 「あり得ねぇだろ常識的に考えて……ん? おい、隊長、待った」
 「ゲロ?」
 クルルは画面の右上にパッと現れたウインドウを確認すると、ラボから飛び出しかけたケロロを呼びとめて、コントロールパネルを手元に引き寄せ猛烈な勢いで操作を始めた。そして間もなく基地に緑色のランプが点灯した。
 「よっしゃ、ケロン軍所属の小型宇宙船一隻、ポコペンの大気圏内に突入確認。ここまで来れば誰とでも通信を繋げる。ってことで、あー、あー、テステス。本日は快晴、流れ弾に注意ってとこだぜェ……聞こえますか、ドロロ先輩」
 『聞こえるでござる、クルル殿。隊長殿もそこにいるでござるか?』
 「きゃー! ドロロ! 本当にドロロだよね! いるいる、いるでありますよ。今回はすまなかったでありますなぁ。てか、あのさ、お前。アサシンマジックの、えーと、波長? の、話? ちょっと後で詳しく聞かせてもらうであります、なんか怖いんだけど」
 『……』
 「え、無視!?」
 「悪りぃ、ノイズが入った」
 「ひどいな黄色君!」
 「だから色呼びすんなっての、うぜぇ」
 『……殿? クルル殿? 状態が少々……でござ……な』
 「少々お待ち……すぐ調整するぜぇ」
 クルルが機械をいじるのを横目に見ながら、ふと、ケロロは気恥ずかしそうに頬をかいた。
 「あー……ドロロ?」
 『にん?』
 「……お前さんが無事でよかったであります。取り返すのが遅くなって、すまなかったでありますな」
 『隊長殿……』
 「で、さ。すまないついでに頼みがあんだけど、いい?」




 夕食にも、結局ケロロは姿を見せなかった。
 そのことで頭を悩ませながら、冬樹はケロロの自室の前で腕を組んで立っていた。よし、と一声、自分に勢いをつけて、再びケロロの部屋の扉に手をかけた。と、その時同じタイミングで内側から扉が引かれて、冬樹は思わずつんのめった。
 「わ、うわっ!?」
 「おやこれは冬樹殿? 大丈夫でありますか」
 ケロロは慌てて冬樹に手を差し伸べる。その手を掴んで、冬樹はバツの悪い顔を浮かべた。
 「あ、ごめんね、軍曹。あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど――」
 「ゲロ。奇遇であります。我輩も冬樹殿に頼みたいことがあるのでありました。夏美殿と小雪殿に、もうすぐドロロが帰ってくるとお伝え願いたいのであります」
 「え、やっぱり、ドロロはどこかに行ってたの? それに、もうすぐ帰ってくるって、それって」
 「ちょっとした野暮用でありますよ。ちょっとした。でも間も無く地球に着くと思うでありますから。心配ご無用であります。それでは、我輩もちょっと用があるゆえ、失礼するであります!」
 ピシっと軽やかに敬礼して、ケロロは日向家の玄関へと走って行った。
 そのままぴょこんと外へ飛び出す姿を見送って、冬樹は気の抜けた笑いを漏らす。
 その時、玄関の音に反応して夏美が部屋から顔を覗かせた。
 「あれ? 冬樹が出ていったのかと思ったんだけど、違ったの?」
 「姉ちゃん。僕じゃなくて、軍曹がお出かけしたんだよ」
 「あ! そうよ、そのボケガエル。結局ドロロがどこにいるのか聞けた? 小雪ちゃんがすごく心配してるんだもの、教えてくれないとひどいわよ!」
 腰に手をあてて怒る夏美を見て苦笑しながら、冬樹はケロロの出て行った姿を思い返した。そして微笑むと、夏美を宥めながら居間に入る。
 「軍曹は、ドロロはもうすぐ戻ってくるから心配しないで、って言ってたよ。たぶん大丈夫だよ」
 だって、ああいう風に軽く飛び跳ねているときの軍曹は、とってもいいことがあったときだから。
 冬樹はくすくすと笑って、続く言葉を飲み込んだ。




 『――ってワケだから、基地じゃなくて直接西澤タワーに向かってほしいであります。クルル時空は大きめに展開してあるから、たぶんすぐにわかると思うけど』
 「その中で戦闘中ということでござるな」
 『ポコペン人に影響の出ないようにしようと思うと、今打てる手がそれくらいしかなくってさぁ。我輩達だけで、なんとかメイン部隊を時空に引きずり込んだんでありますよ。頑張ったっしょ! あちらさんの狙いは基地だから遠い場所に誘導もできない上に、何せ、ほら。赤いのが沸騰してたから、そりゃ急いだワケよ』
 「あぁ。それは」
 ドロロは苦笑して、宇宙船の速度を調整しながら通信を続ける。宇宙を飛んでいるうちはいいのだが、地球の大気圏に突入してからはそれまでのような高速操縦ができないので――あまり速度が速いと空気の動きを地球人に観測されてしまうことがあるので、宇宙法に基づいた制限速度が厳しく設定されているためだ――航行速度を調整する必要があるのだ。
 制限速度まで速度が落ちたことを確認して、ドロロは一息ついた。
 「了解したでござる。現在の戦況は」
 『タママはタワー周辺でクルル時空から逃げ出してきた敵兵を攻撃したり、クルル時空に押し戻したりしてるであります。あと西澤家の防衛も、でありますな。クルルは敵母艦のシステムを乗っ取るとか言って、ラボに閉じこもっちゃったであります。そんで、我輩はタママを援護しながら一緒に戦闘中~、っと』
 なるほど、会話の合間にビームの飛び交う音が微かに聞こえる。タママインパクトが発射された音も。しかし、普段ならば必ず聞こえる、戦場でもよく通るあの声が欠けている。
 「そして、ギロロ殿がクルル時空で一人で戦っているということでござるな」
 『そういうこと。敵兵の9割は中にいると思うであります。赤ダルマったらさァ、最近お前がいないことで相当ストレス溜めてたみたいでさ、もう本当に大暴れしちゃって。すっごいの』
 「そ、そうでござるか」
 ギロロが大暴れする図というのは想像に難くない。というか、過去の“大暴れ”を思い出すだけでぞっとするくらいだ。確かに、そんな状態のギロロを地球の市街地に放しておくのは危険極まりない、と、地球防衛の立場から、ドロロはクルル時空を展開した判断に感謝した。
 そうこうしているうちに西澤タワーが見えてきた。近付くにつれて周囲を飛び交う緑色と黒色の点を見つけて、知らず安心感を覚える。と、ケロロ達もドロロの乗る宇宙船に気が付いたようで、油断なく辺りを警戒しながらも普段通りの気軽さで手を振ってきた。
 タワーの近くに宇宙船を停めて、ドロロは外に出る。
 時は夕刻、沈みゆく夕日が紅葉に染まる町を更に鮮やかに赤く染めていた。
 「隊長殿、タママ殿!」
 「お疲れさん、ドロロ!」
 「わーい、ドロロせんぱーい!」
 心からの笑顔で手を振ってくるタママに同じくらいの笑顔を返してから、ドロロはケロロの方を向いた。そして何かを思いついたように、少しだけ不満げな表情を作る。
 「拙者、隊長殿に見限られたのかと思って、肝を冷やしていたでござるよ」
 「まっさか! ありえないでしょ、そんなん……あ、でも今日の働きによっては、そうなるかもネェ~? だから頑張ってお仕事してきてほしいでありますヨッ」
 「おお、恐い。それは力を尽くさねば。して、空母は落とさなくて良いのでござるな」
 「うん。つか落とさないでおいてやって。我輩達の目的は勝利じゃなくて、防衛でありますから」
 「承知致した。では、拙者、このままギロロ殿と合流するでござる」
 「よろしくであります」
 笑い合い、互いに敬礼を返し合うと、ドロロは大気の歪み――クルル時空の入り口をキッと見据えて、迷わずに飛び込んでいった。




 時空をまたぐ一瞬、空気が変わったような揺らぎを感じる。が、一瞬後には心地良いジメジメとした湿気に気分が高揚するのがわかった。
 ドロロは足取りも堅実に荒涼とした風景の中に降り立ち、体の調子を確認する。
 そして目的の人物を探そうと顔を上げた直後、すぐ近くで大きな爆発がおこり、慌てて飛び退りながら刀に手をあてがった。煙の中、目を凝らすとそこには色付いた秋の葉よりも、そして沈みゆく夕陽よりも赤い影。ドロロは思わず口元を緩めてしまったが、次の瞬間、構えた刀を煌めかせて周りを囲んでいた敵を一蹴した。敵が自分との距離を取ったことを確認し、赤い影へと飛び寄る。
 青い閃光に気付いた赤い影も口元を笑みの形にさせて近寄り、すぐに2人で背中合わせになった。
 「貴様、他所の星で随分と活躍してきたようではないか。その勢いで、コイツらもまとめて蹴散らしてほしいもんだな」
 武器を構えて敵との間合いをはかりながら、ギロロが言う。
 「ギロロ殿こそ、今日は随分と調子が良いようにお見受けする。そのような武器を持ち出して、このくらい一人で片付けられると言わんばかり」
 同じく敵の動向に目を配りながらドロロも答える。
 ギロロがフン、と鼻を鳴らした。
 「普段使わないような大物も、たまには使ってやらんといかんだろう。武器の状態も俺の腕も鈍ってしまうからな――だが、やはり俺にはこちらの方が性に合う」
 そう言うと、ギロロは見た目には軽々と抱えていたロケットランチャーとガトリングを放り投げ、愛用の小銃を取り出して構えた。
 ドロロはちらりと振り返り、見慣れたギロロの姿に目を細めたが、自分も懐から手裏剣を取り出して構える。
 「腕が鈍るなど、謙遜も過ぎると嫌味でござるよ。しかしやはりギロロ殿は、その姿が、一番、佳い」
 「貴様がそこにいるのならば、俺が大物を持ち出す機会も必要もないだろうが。だからこれくらいが丁度いいんだ。……なんだ、その呆けた顔は」
 「え、いや、なんか恥ずかしいなぁって――」
 と、いい加減、目の前で呑気な会話を繰り広げられていることにしびれをきらせた敵兵の一人が2人に銃を向けた。
 その途端、表情を一変させて完璧な戦闘モードとなった2人が、オランジ星人に全軍撤退を決断させるまでそう時間はかからなかった。




 「ドロロ」
 「おや。これはギロロ殿」
 戦いも終わって時刻は既に夜。
 空高く、明るく輝いている月を眺めていたドロロは、呼ばれた声に反応して視線を屋根の下に向けた。
 ドロロと目が合って、ギロロが笑みを浮かべた。ソーサーを動かして屋根まで上がってくる。ドロロのすぐ傍でソーサーから降りると、そのまま隣に腰をおろした。
 ギロロはドロロに倣って月を見上げた。
 「忍者娘が心配していたそうだが、もういいのか」
 「小雪殿には挨拶が済んだでござるから、もういいのでござるよ。互いの行動を逐一把握し合わなければならない間柄でも無いでござるゆえ」
 「そういうものか」
 「そういうものでござる。あぁ、そうだ。ギロロ殿。夏美殿にも心配と迷惑をかけてしまったようで、申し訳ない」
 「お前が謝ることではない。それに俺に言われても困る」
 「そうでござるか」
 「ああ、そうだ」
 沈黙が降りる。
 秋の夜風は涼しく、元気に鳴く虫の声で存外に賑やかだ。
 「……時に、バララ中尉の処遇は」
 「あの派手な色をしたのは、バララと言うのか。さぁな。珍しくアイツらが真面目に仕事をしているみたいだから、まぁ、な」
 「推して知るべし、ということでござるな……南無」
 ギロロは神妙な様子で手を合わせるドロロに苦笑しながら、月を眺める。今夜の月は、煌々と白く、美しい。
 「……まだでござったな」
 ぽつり、とひとり言のように呟かれたドロロの言葉を拾い漏らさずに、ギロロはドロロに視線を向けた。
 そこにあったのは青い瞳。
 夜空を見ているとばかり思っていたドロロの視線が自分に向けられていたことに気付いて、思わずどきりとする。透き通った柔らかな青色に魅せられる。
 ギロロが内心焦っているうちに、ふっとドロロははにかんだように目を伏せて、それからおずおずと顔を上げた。
 「ギロロ殿。拙者、まだ言ってなかったでござる」
 「な、何がだ」
 「帰りの、挨拶を。君に。わざわざ言うのも変かもしれないけど、言いそびれるのも嫌だし。だから」
 ドロロはふわりと微笑んだ。
 「ただいま、ギロロ君」
 ギロロは一瞬呆気にとられたものの、すぐに優しく瞳を細めた。
 「……あぁ、おかえり、ドロロ。どうだ、この間の話の続きでもするか?」
 「ふふ。それもいいけど。折角だから、拙者が居なかった間の話が聞きたいでござるなぁ」
 「そうだな。俺もあの事故のことはいい加減思い出したくないし、その方がいい。さて、何から話そうか――――」
 ギロロは笑顔を浮かべて、月に目を戻す。
 ドロロもそれを追って月を見つめる。
 虫の声のさざめく夜。果てなく広がる空が2人を柔らかく包んでいた。






 

(2011.11.18)




 蝉の声を聞きながら書き始めた文章が、初雪と共に完成。長かった、色んな意味で!
 今回
のテーマはビー・コネクトの仕様について+ギロドロ風味、でした。
 暗殺兵術ビー・コネクト、別名ケロロ君専用超追跡(ストーカー)術。ドロロは“ケロロ小隊のピンチ”というより“ケロロ君のピンチ”に敏感に反応していると思うんです。軍曹は怒ってもいいと思うし、怒る気力も無くドン引きしててもいいですね。
 ビー・コネクトは、表紙絵(コンセプトイラスト)では蝶を飛ばしていますが、どちらかというと昆虫以外の虫のイメージです。昆虫ならテントウムシかな。でもメインはムカデとかゲジゲジとか、いや~~な感じの虫。おぞましい。近寄りたくない。そういうモノこそ身に這わせ、手足の様に駆使する、そんな。自分で絵にはできませんでしたが。
 今回の敵役、バララさんは今回こっきりの登場ですが、中々おもしろいキャラになったと思います。展開をまとめていくうちにかなり悪いヒトになってしまったのが少し残念。
 それから、ドロロ=ゼロロは、あくまで一般兵である、アサシン畑出身だしその能力をフル活用しているけどそれでもあくまで一般兵であって、今はもうアサシンではない。そういうスタンスで構築してみました。と言っても、考えすぎて途中からだんだんわからなくなってきましたが、とりあえずこれからも当サイトはこういう姿勢です、たぶん。ドロロが一般兵であることについては、また別の形で語ると思いますが、例えばクルル“曹長”のような理由なんじゃないかと思っています。とりあえずアサシン部隊の捏造が激しいですね。構成人数は多くないだろうなと思います。精鋭と言われるくらいですし。ゾルル兵長は実質的階級が無効ということなので、ガルルが個人的に拾ってきたのかなーと思っています。どこで拾ってきたんだろう、気になる。
 途中まで大したギロドロしてないのに、最後で急にいい雰囲気になって焦りました。そして、ラストのいいムードよりも一緒にバトルしてるシーンの方がギロドロらしくて好きです。燃えます。ドロロ合流前の小隊4人バトルなトコロも好きです。伍長、ラブラブはしばらく我慢しておくれ……。
 読んで下さってありがとうございました。











 

オマケ(なんか色々間違ってます)
秋の夜長に虫のさざめく_after





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秋の夜長に虫のさざめく – Ⅲ



 (ⅰ)
 ケロロたちが急襲を受けて苦戦を強いられている頃、オランジ星では、ケロン軍本部テント内が混乱状態となっていた。一般兵にとって普段は滅多に見ることのできない姿――軍帽の代わりに布をたらした帽子、そして口元を隠すマスク――基本的に姿を表さないはずのアサシンが、ただならぬ形相で突然駆け込んできたからだ。隊の参謀は作戦が失敗したのかと顔色を失ったし、若い通信兵は驚愕の面持ちで目の前にいるアサシン出身の男とレーダーとを何度も交互に見比べた。他の者たちもドロロの尋常でない勢いに気圧されて、テントの端に寄って固まっている。
 だが、ドロロは、周囲の視線を気にする余裕もないままに、ばさりと頭部の布をはためかせながらバララ中尉に詰め寄った。今まさに淹れたてのハーブティーを楽しもうとしていたところを邪魔されたバララ中尉は、不快そうに眉を寄せた。
 「何事だね。騒がしいぞ、ゼロロ兵長。貴様に命じたエリアの敵戦力の無力化はどうなって――」
 「中尉殿、現在の地球の状況は!」
 「……ゼロロ兵長。まずは上官の質問に答えるべきだとは思わないかね」
 バララ中尉が言葉を遮られた苛立ちを露わにする。ドロロは軽く息を詰めて、気持ちを落ち着かせるようにしながら吐き出した。
 「失礼しました。敵戦力の無力化は既に完了しています。隣接するエリアの武器破壊も同様に。それで、地球は、」
 「ふむ。上出来だ。相変わらず仕事の早い男だね」
 「中尉殿!」
 報告を聞いて満足したのか、平静を取り戻してティーカップを手に取るバララ中尉に、今度はドロロが表情を険しくして詰め寄った。その剣幕に、テントの隅にいた新米の兵士が身を竦ませる。
 しかし当のバララ中尉は、いかにも面倒くさい、といった風にカップを傾けた。
 「何だね。地球? さて、今頃ケロロ軍曹殿が侵略に励んでいらっしゃるのではないかね。まぁ、我々とは関係のない話だが」
 「侵略……隊長殿が……? いや、違う、あれは」
 「今の貴様の隊長は私のはずだが?」
 「……失言を。しかし中尉殿、一つだけ答えて下さい。今、地球は、ケロロ小隊は何かしらの危機的状況にある。違いますか」
 ドロロの言葉にテント内がざわめいた。
 ケロロ小隊と言えば、ケロン星の期待を一身に背負って悲願のポコペン侵略に励む隊として、非常に有名だ。また、その任務内容のみならず、豪華と言っても障りのない名高い隊員が揃っているという面においても注目を集めている。
 そのケロロ小隊が危機的状況だなんて、と、驚きと不安がテントの中を伝染していく。それを感じ取って、バララ中尉はカップを手に持ったまま、さも大儀そうに立ち上がった。
 「ゼロロ兵長。相変わらずユーモアのない男だね。作り話ならもっと興味をそそる話を考えたまえ」
 「作り話などでは」
 「ほう。ならばなんだと言うのかね。通信兵、ケロロ小隊から何か通信が来ているかね? 来ていない、まあそうだろうね。ありがとう。さて、ゼロロ兵長。我々にポコペンからの通信は一切届いていない。そもそも侵略活動は常に大きな危険と隣り合わせのものであり、先行工作部隊が何かしらトラブルに巻き込まれることも容易に想定される事態だ。ここまで異論は?」
 「……ありません」
 「よろしい。では続けよう。そうだね、華々しい活躍を誇る、あのケロロ小隊だ。ケロロ軍曹殿はこれまでも様々な危機を幾度も切り抜けてきたようであるし、もし、今、トラブルに直面していたとしても、それはケロロ軍曹殿の実力からして何でもないことなのかもしれない。そうだろう? いずれにせよ、我々の知るところではないね」
 「でも、僕は」
 「今日はやけに雄弁じゃないか、ゼロロ兵長」
 今度はドロロの言葉にバララ中尉が割り込んだ。カップを持つその指先には力がこめられ、白く色が変わっている。
 「まさか、あぁ、まさか――ゼロロ兵長、君は所属を離れた部隊と連絡を取り合い、ケロロ軍曹から直接救援信号を受け取っていたとでも? 従順に私の命令に従う裏でそのような非常識な真似をしていたとでも? それとも、通信機の番号を変えるように命じたのに従わずに残しておいたとでも言うのか、もしや……あぁ忌々しい、貴様、ケロロ軍曹に何か妙な知恵でも吹き込まれたか!」
 最後には、バララ中尉は大声で叫びつけていた。強く握られた持ち手にヒビが入って砕け、カップが地面にぶつかって大きな音をたてながら割れた。常に優雅さを保っていた上官の、今まで見たことのない程の怒りの形相を目の当たりにして部下達が身を震わせる。しかしドロロはまったく動じた様子もなく、目を伏せて静かに首を横に振った。
 「いいえ。この星に来て以来、地球と連絡をとったことなどありません。しかし――」
 ざわ、と空気が揺らめく。
 テントの中にいた兵士たちはぼんやりとドロロの体が光ったような錯覚を受けて、目を擦った。
 いや、錯覚ではない。
 実際に静かな光が青い体に集約し、その光が次第に何かを形作っていく。兵の集団の一角から、ひっ、と息を飲む音が聞こえた。意思をもったようにぞわりと蠢く光、それは、まるで多足類の虫。次から次へと湧き出しては身を這う光を薄く濃く纏いながら、温度の無い瞳でドロロは続ける。
 「――暗殺兵術、虫のしらせ(アサシンマジック、ビー・コネクト)。この術は、我々アサシンが、己で定めた対象者の身の危険を察知する術です。僕はその対象を常に“ケロロ軍曹”の波長に合わせています。何の攻撃にも使えないこの術の用途はアサシン個人の自由なものだから……」
 ドロロの眼光が零下の鋭さを見せた。同時に虫の動きも激しくなった。かさかさと擦れ合う音すら聞こえそうな程である。
 「僕はこの術でケロロ小隊の、いいえ、ケロロ軍曹の危険を感じました。SOSが来ていないのは無事だからではない、彼らは今、救援信号も出せない程の危機的状況に陥っている可能性がある! ……バララ中尉。貴方は知っているはずです、地球の状況を」
 テント中から、目の前の会話を理解しきれない、と言いたげな視線が対峙する2人に集中する。
 そして、ドロロも詰問するような視線を目の前の男に突き刺す。
 しかしそのどちらにも構うことなく、バララ中尉は、不意に口の両端をつり上げた。
 「実に、実に興味深い! そんな術もあるとはさすがアサシンだ。ゼロロ兵長、君は実に有能だし、君の活躍は素晴らしい。おかげで我々は戦況を常に有利に運ぶことができている。だが不思議に思わなかったかね、ここ数日のわが軍の圧倒的な勝利の原因を」
 「……何、を」
 虚を突かれてドロロは戸惑った。
 バララ中尉は、ゆっくりと言い聞かせるように続ける。
 「拮抗状態がせいぜいのこの戦力で、この侵略作戦を成功させるにはどうすればいいのか。何、簡単なことだ。自軍の戦力が敵戦力を上回ればいい。そしてこの宇宙において、“みんなポコペンを欲しがっている”。さあ、これだけ言えばわかるかね」
 「いったいどういう、……まさか!」
 ドロロは目を見開いた。
 「まさか、地球を――ケロロ小隊を敵に売ったのですか!」
 テント中が驚愕に包まれる。次第に大きくなる当惑のざわめきのなか、今や全ての部下の注目を集めることとなったバララ中尉は、それでも華やかに微笑みながら口を開いた。
 「人聞きの悪い言い方を。戦略と言ってもらいたいものだ、ゼロロ兵長。例えば、そうだな。現在ポコペンにはケロン軍の総指揮官がいるらしいという噂が流れたとしよう。その噂がオランジ星人の耳に入り、主戦力をポコペンに向けてこの星で交戦中のケロン軍が撤退するように仕向けようと考える……そういうこともあるかもしれないね」
 「貴方は……まさか、貴方が」
 「情報戦だと言えば分かってもらえるかね?」
 「詭弁だ! なんと卑劣なっ……」
 ドロロの瞳が怒りに揺らめいた。バララ中尉はそれすらも愉快そうに笑んでみせた。
 「卑劣だと? 人聞きの悪い。ゼロロ兵長、私は何もケロロ小隊を見殺しにする気はないのだよ。物事には順序があるというだけなのだから。いいかね、まず、我々がこの星での戦いに勝利し、次にポコペンへ救援に向かう。そこでまた我々がオランジ星人を破って――あぁ、オランジ星人が対物理攻撃強化型装甲を備えていることくらいは、ケロロ軍曹殿にお教えするべきだったかねぇ。紅茶の商船に奇襲をかけたときには物理攻撃しか用いなかったのだから、当然装備だって偏るだろうし――まぁいい。ケロロ小隊やポコペンには少しくらい被害が出るかもしれないが、侵略達成のためなら些少な犠牲に過ぎない。そしてオランジ星もポコペンも、念願叶ってケロン星のものとなる。あぁ、美しい。これが理想形だ! そう思わないかね?」
 『思わない、でありますな……少なくとも我輩は』
 「なにっ!?」
 バララ中尉が両腕を広げて言い放った直後、突然本部の通信機から届いた、聞き慣れない――ドロロにとっては懐かしい――声。
 「ケロロ……君?」
 ドロロが茫然と呟いた言葉に、バララ中尉は表情を強張らせた。
 部屋の中央の通信機から聞こえるのがケロロ軍曹の声だとわかって、兵士たちの興味が中央に集まる。全員の視線が集中しきった絶妙なタイミングで、通信機から再び声が響いた。
 『突然の通信、失礼を――おっと、その前に無理矢理通信回線を繋げたことでありますな、これまた失礼を。現在少々立て込んでおりまして、お詫びが後回しになること、お許しいただきたい。我輩はケロロ軍曹であります』
 「通信兵!」
 「た、只今、回線をチェック中です!」
 バララ中尉の怒鳴り声がテントを震わせたが、それに構わずケロロは続ける。
 『バララ中尉殿、話は聞かせていただいたであります。いやぁ、御自分の任務を済ませてからポコペンも侵略しちゃおうだなんて、一石二鳥を狙う心意気、野望(ユメ)がでっかいのはいいことでありますなぁ。しかし、ポコペン侵略は我がケロロ小隊の任務であり、他の部隊の救援要請など、現在も、そしてこれからも出す予定はないでありますよ。勝手なことをされるのは困るであります。軍規でも、他の部隊が勝手な判断で余所の仕事に手を出すことは禁止されていること、よもや御存知無い訳ではありますまい』
 この言葉に、青い瞳が驚きに見開かれた。暗殺兵術によって確かにケロロの危機を感じたというのに、ケロロは援軍を要請するつもりはないという。危険な状況にあって尚、他の部隊の助けを必要としないその理由は。ドロロは、一つだけその解答に――自分の望んでいた唯一の解答に思い至り、思わず自分の胸元に手を当てた。
 ――まさか、でも、いや、もしかして。彼が必要ないと言ったものは“他の部隊の援軍”、ならば彼が今、必要としているモノは――……?
 ドロロが思考に集中する傍らでは、バララ中尉が声を張り上げていた。
 「ポコペンからの通信は完全に切っておけと言ったはずだ、通信兵!」
 『く~っくっく、そんなチャチな暗号化で“完全に通信を切っている”……ねぇ』
 通信機からケロロのものではない陰湿な声が聞こえてきた途端、古参の通信兵が短い悲鳴をあげた。
 『いつから軍の通信機はお子様のごっこ遊びのおもちゃになったんだい? 程度が低すぎる、いっぺん本部の研修受け直してきなァ。音声だけあれば必要十分だからこれ以上は勘弁してやるが、もうちっと危機感持った方がいいぜ……ほれ、サービスだ。く~っくっくっく』
 その言葉に反応するかのように、一瞬、立体映像を投影する装置が勝手に作動し、オレンジ色のうずまき模様が表れ、すぐに消えた。顔を青ざめさせながら通信兵が総出でキーを叩き、そのうちの一人が手を止めると、絶望的な表情でバララ中尉を振り返った。
 「中尉殿! ケロロ小隊の、く、クルル曹長による通信傍受の形跡を発見! 一番古い日時は――――1週間前です!」
 「なんだと!」
 『ゼロロ兵長……いや。ドロロ兵長』
 普段の余裕のある表情を完全に崩して、バララ中尉は通信機とドロロを交互に睨み付ける。だが、ドロロは通信機の声に全神経を集中させていた。期待と不安、複雑な感情に、それでも瞳を輝かせながら。
 『ケロン軍本部より、先日の貴様の部隊異動命令が、今、たった今、取り消されたであります。よって、貴様はこの時より、再び我がケロロ小隊の一員――ドロロ兵長! 直ちにポコペンへ、我々の任務地へ帰還せよ!』
 「……!」
 ドロロの瞳が力強い光を取り戻していく。その頬には血の気が戻り、喜びに、ただただその顔を輝かせている。横でバララ中尉が何事か叫んでいるのも耳に入らない。
 「何を言っている、私はそんな命令を聞いていない! おい、ゼロロ兵長、勝手なことは許さんぞ!」
 『だから今出たばかりなんだっつーの。もうすぐメールが行くはずだぜェ、どうぞお楽しみに。くっくっく……』
 「……了解!」
 居ても立ってもいられない、といった風に、ドロロは身を翻しテントを飛び出して行く。テントの外で立ち聞きしていた兵士達が、慌てて避けようとして互いにもみ合っているのを気にもとめず、軽々と遥か頭上をジャンプして飛び越えた。
 その軽やかさと生き生きとした表情につい見惚れている部下に対して、バララ中尉は急いでドロロを追うように命じた。我に返った部下達が慌てて動き出そうとしている間にも、ドロロは風のように先へと進む。目指すはケロン軍小型宇宙船の格納庫。
 「止めろ! ヤツをポコペンへ行かせるな!」
 「中尉殿、し、しかし」
 『おぉ~っと、小型艇の発進に協力してもらうぜぇ、ソッチの技術職さん方よ。抵抗したけりゃしてもいいが、いいか、言っておくが俺様はそれを全部押さえつけるし、宇宙船は飛ぶ。結果が同じなんだから手間の少ない方で頼むぜ。何しろ、侵略対象の星がひとつと、特殊任務活動中の小隊ひとつの存亡がかかってんだからなァ……』
 もの凄いスピードで勝手に操作が進んでいくパネルを見た通信兵が、躊躇しながらもクルルの言葉に納得して格納庫のロックを解除する。整備兵もシステムを起動させ、宇宙船に問題のないことを確かめて飛行許可状態へと操作した。あとは誰かが乗り込み、搭乗者が発進させるだけ――と、その時、一隻の小型宇宙船が無事に発車したことがランプの点灯によって本部テントに伝えられた。
 「貴様らぁっ!」
 『おお。忘れておりました』
 歯ぎしりをしながら拳を固く握りしめたバララ中尉であったが、再び通信機から響いた声に思わずその手を緩めた。なんとも言い難い、威圧感の籠められた声音がその場を支配する。
 『先程の中尉殿とのやり取りは、全てケロン星へと同時通信しております。中尉殿に対しては、先日の命令の取り消しと同時に、ケロン星への召喚命令も出ていると思うでありますが……いや、これ以上は出過ぎた真似でありますな。バララ中尉殿。ポコペンは我輩にお任せ下さい。それから、数々の御無礼ご容赦下さいますよう。それでは――』
 「……なんと、いうことだ」
 通信が切れると同時に、ケロン星からの一通のメールが届いた。バララ中尉はがくりと肩を落とす。自分の周りにケロン軍の調査が入れば、何がしかの処分は免れないだろう。バララ中尉は放心したまま、足元の割れたカップと零れた紅茶を見つめていた。いつも心を癒してくれるハーブティーの匂いが、今はやけに鼻につく――ぼんやりとそんなことを思い浮かべながら。






 

Ⅲ(ⅱ)




ケロロ君がドロロを見捨てるはずがない。わかっていても不安になっちゃうドロロ心(違)。それと曹長万能説。てゆーか、自分から悪事をペラペラ喋っちゃうなんて、なんて典型的な悪役! 




 (ⅱ)
 日向家直通、ケロロ小隊地下秘密基地。作られた当初はシンプルな構造だったこの基地も、無謀無秩序無計画な増改築を施され、今ではちょっとした迷路のようになっている。
 その地下基地を迷わずに進む足音がひとつ。その足音の主、日向冬樹は、腕を組んで重い溜息をついた。
 「東谷さんのためにドロロのことを軍曹に聞きに行くなら、自分で行けばいいのにさぁ。姉ちゃんったらわざわざボクに行かせるんだから。ヒドイよね、まったく」
 ケロロの自室が無人だったので、きっと地下基地にいるのだろう。冬樹はそう検討をつけて、足取りの重いままに基地内の会議室へ向かう。
 せっかく自分の部屋でのんびりとオカルト雑誌の最新号を読んでいたというのに。小雪の悩みをケロロに聞くのなら、引き受けた夏美自身が聞きにいくのが筋だろう。学校から帰ってくるなり開口一番、地下基地まで追い立てられてはたまったものではない。まぁ、今日の食事当番は夏美なのだから、手の空いている自分が行かされることも仕方ないのかもしれないけど。
 色々と文句を考えつつ歩くが、先程から気分は重くなる一方だ。しかし、冬樹の気を重くしている一番の原因は、これらの文句とは別のところにある。
 「……姉ちゃんもわかってるくせに、人に行かせるんだから」
 言うと、嘆息。
 最近、ケロロ達の様子がおかしいことは冬樹も気づいていた。
 ケロロは普段通り家事手伝いをし、漫画を読み、ガンプラを作っている。だが、ふいに厳しい表情を見せるときがあった。それを冬樹が指摘すると、にへら、と笑って何でもないと言いながらそそくさと自室へ引きこもってしまう。なんとなく、いつもと様子が違うのだ。ギロロも銃を手入れする手が止まってぼんやりしているときがあるし、先日など、うっかりと焚き火の火を絶やしてしまい、大慌てしている姿を見た。それに、普段からまず姿を見せないクルルはともかく、西澤家に居候しているタママの様子もおかしいようだ、と、ちょうど昨日桃華から相談を受けたばかりだった。
 そこへ追い打ちをかけるような、小雪の言葉。
 これで何もないはずがない。
 いつもの悪ふざけや、へっぽこな侵略作戦なら問題はないのだけど、でも、たぶんそうじゃない。深刻な事態が発生しているときや身内のトラブルに揉めているとき、彼らは決まって地球人を関わらせないように行動するのだから。
 そうこう考えているうちに目的の部屋が見えてきた。
 なんとなく緊張した面持ちで、冬樹は扉の前に立つ。スムーズに開いた自動ドアから顔を覗かせて、冬樹はケロロを探す。
 「軍曹、いる? ちょっとドロロのことで聞きたいことがあるんだけど……」
 「おや! おやおや、冬樹殿! 申し訳ないでありますが、今少々立て込んでおりましてな、用事ならまた後で聞くでありますよー、ってことなんで、御免ねー、またねー、ほいっと」
 「え? え? え、ちょ、ちょっと、軍曹!?」
 後光の射しそうなほどイイ笑顔でまくし立ててくるケロロに呆気にとられているうちに、有無を言わせぬ強引さでぐいぐいと押されて、冬樹は部屋から外へと追い出された。
 そして状況が飲み込めずにぽかんとしている間に部屋の扉は閉まってしまった。慌てて再び近寄るが、自動ドアのスイッチが切られてしまったようで、扉が開く気配はない。
 あっという間の出来事である。
 参ったな、と冬樹は頭をかいた。
 強く拒否されていることを体現するかのような、静まり返った基地の空気。
 設備の稼働音だけが静かに聞こえてくる空間にしばらく佇んでいたものの、少なくとも今日はもう話を聞くことができないようだと見当をつけた冬樹は、とりあえず自分の家に戻ることにした。
 今の出来事そのままを夏美に話せば、夏美は怒ってケロロの元へ乗り込むだろう。そうすればケロロも話さざるを得なくなるはずだ。だが、冬樹はなんとなくそうする気になれなかった。気軽な気持ちで関わるべきではない、と肌で感じた、あの緊迫した空気。できれば、無理に話を聞き出すことはしたくない、ケロロ達が落ち着いた頃に自分達に話してくれればそれでいい。そのためには、今は誤魔化しておくのがいいだろうけど、どうやって夏美を誤魔化そうか。冬樹はまた別のことで頭を悩ませるハメになり、再び溜息をついて歩き出したのだった。




 一方、会議室内には張りつめた空気が流れていた。
 互いに向かい合うように寄せられた机に着席するのは4人。いつも静かに参加している青い姿は無く、欠席時の身代わりパネルもない。ポカンと空いたスペースを見つめつつ、ケロロはホワイトボードを背にしてただ静かに着席していた。
 ゆらり、と机の一角で赤い帽子が揺れた。
 「どうやらポコペン人にも感付かれているようだな。こうなれば、お前がドロロを外した理由がはっきりするのも時間の問題だ。時間を無駄にする前に、いい加減聞かせてもらおうか」
 片腕を机に乗せ、身を乗り出してギロロが静かに口火を切る。
 極度の怒りを無理に抑え込むと、こうも静かになるのだろうか――低い低い、地の底から響くような低い声である。堪えきれぬ叫びが滲みだしてくるかのような口調に、向かいの椅子に座るタママが身を震わせる。
 ギロロやタママの様子とは裏腹に、心ここにあらずといった風で沈黙を貫くケロロ。
 入り口に近い席に座っているクルルはだらけた姿勢で自分には無関係とばかりにパソコンをいじっているし、モアは会議が始まる前にお茶を持ってきたきりひっこんでしまい、不在だ。
 せめてあの女でもいれば、もう少し違った空気になったかもしれないのに。肝心な時に使えない女ですぅ。
 そんなことを考えながら、先程からずっと続いている重苦しい空気に耐えかねて、タママは居心地悪そうに尻尾を動かした。そして、なにもかもが突然にやってきたこの1週間を思い返す。
 ある日、地下基地でトレーニングをしていたら突然意識を失った。
 目を覚ました時には医務室に寝かされていて、ヤバいガスを吸ったので安静にするように言われた。いきなりヤバいガスなんて言われても、自分は何も話を聞かされていなかったというのに。貧乏くじをひいてしまったような展開に辟易としていたところで、これまた突然聞かされたのは、ドロロがケロロ小隊からいなくなったということ。
 (ほんと、寝耳に水って感じですぅ)
 タママはこっそりとギロロの様子を伺う。ギロロは怒りのあまり発熱しており、真っ赤な炎が周囲に揺らめいているような感覚さえする。蜃気楼が見えているのはおそらく目の錯覚ではないだろう。普段から不真面目なケロロに対してあれやこれや怒鳴りつけているギロロだが、この件に関しては、一貫して静かにケロロを問い詰める姿が見られるだけだった。しかし、その分、ギロロの胸の底に沸々とした怒りが蓄積されていくようで、それがいつ爆発するか知れなくてタママは気が気ではない。
 ギロロが手を固く握ってもう一度口を開く。
 「ケロロ」
 「だから、その話は、今する話じゃないって言ってるでありましょ。それよりも、今週の侵略作戦でありますが――」
 「説明しろと言っている、ケロロ!」
 業を煮やしたギロロが、机に握りこぶしを叩きつける。
 その音に身を竦ませたタママだったが、おそるおそると言った風にケロロの方を向いた。
 「軍曹さん、ボクも聞きたいですぅ。ドロロ先輩のこと、ちゃんとお見送りもしてないし、今どこにいるのかも知らないし、ケータイだって繋がらないですぅ。せめてドロロ先輩が部隊異動をすることになった理由くらいは聞きたいですけど、それも聞いちゃダメなんですか?」
 「……」
 「軍曹さぁん」
 やはり、話すつもりはないらしく、この話題になるとケロロは完全に口を噤んでしまう。
 すっかりお手上げの気分で、タママはジュースのカップを引き寄せて、ずるずると音を立てながらストローを吸った。そしてケロロからは視線を外したものの、ギロロに視線をぶつけるのは恐い気がしたので、消去法で仕方なくクルルに目をやった。
 いつもと打って変わって静かな態度のケロロとは対照的に、まったくもっていつも通りの様子のクルルである。こんな重苦しい空気の中でもいつもと変わらないこの態度。ある意味凄い、と半ば呆れながら思う。今のクルルはヘッドホンで音楽を聞きながら、パソコンで何か作業をしている。会話に参加してくることもなければ、誰かを茶化すこともない。
 と、タママはお菓子に伸ばしかけた手を止めた。
 (……あれ? “茶化すこともない”?)
 自分の思い至ったことに、はた、とタママは瞬きをする。そして慌ててクルルの方に向かって顔を上げた。
 「んぁ? なんだい、タマちゃん。く~っくっくっくっ」
 「え、いや、な、なんでもないですぅ、なんでも!」
 視線に気づいたクルルに愛想笑いで誤魔化してから、タママはこっそりとケロロとクルルを見比べた。
 そうだ。そうだった。クルル曹長という人物は、場が荒れているときにも飄々とした態度を崩さず、それどころか面白がって掻き混ぜてくるような人物だ。しかし、そのクルルが今日は随分とおとなしいではないか――余計な口を挟んでこないのだ。相当わかりにくいが、クルルの様子も“いつも通りではない”ということなのだろう。タママは何か大変な発見でもしたかのように、興味深く頷いた。
 一方、ケロロがどうしても話そうとしないことに苛立ちを隠さないまま、ギロロが矛先をクルルに向けた。
 「お前はどうなんだ、クルル。何か知っているのではないのか」
 クルルはギロロの鋭い視線を受けたにも関わらず、気にしない風に高く笑って、頬杖をついたまま片手をひらひらと振った。
 「知ってるかどうかと言われりゃあ知ってる。でも、隊長に話すなと言われたことを話すワケにはいかないんでねぇ。残念でした。せいぜい頑張って隊長から聞き出しなァ。くくく……」
 「ええい! 貴様ら、いい加減にせんか!!」
 「わわ、ギロロ先輩、ダメですぅ!」
 「止めるな、タママ!」
 椅子から立ち上がり、今にも二人に殴りかかりそうなギロロをタママは慌てて止める。
 しかし、ケロロは見ているだけだし、クルルに至っては挑発するかのように笑うのをやめようとしない。あぁ、この場に足りないものは冷静で大人な常識人だ、と眩暈を覚えながらもタママは必至にギロロをなだめようと試みるが、いかんせん状況が悪すぎる。
 「ダメですぅ、ギロロ先輩、落ち着いて下さいですぅ」
 「何とか言え、ケロロ! いつまでだんまりを決め込むつもりだ!」
 「……」
 「おー、こわいこわい。くっくっく……」
 「クルル、貴様!」
 「ゴルァアア、黄色も煽ってんじゃねぇええ! あぁん、ギロロ先輩、お願いですから落ち着いて――!?」
 「!」
 裏タママが本気でキレそうになったその時、聞こえた電子音に全員の動きが止まった。
 「アラームですぅ!」
 「敵襲か!?」
 基地中に響き渡る緊急警報のアラーム。
 その音に反応してケロロが素早く顔を上げた。同時にクルルがパソコンを操り、準備していたかのようなスピードで部屋の中心に大きくスクリーンを展開する。
 絶え間なく更新される各種データと共にそこに映っていたのは、地球に侵入してきた巨大な宇宙船の映像、そして完全武装で続々と降り来る宇宙人の姿。
 「これは――……」
 「このヒトたち、訓練校で習った覚えがあるですぅ。確か、オランジ星人でしたっけ」
 「あぁ。ポコペンの大気圏突入からこっち、迷わず一直線に日向家を――いや、この基地を狙ってきてやがるみてェだな」
 クルルがコンピュータを操作しながら答える。
 「ソッコーでアンチバリアを強化したが奴らの進路に変更なし。基地の座標は知られてるみてぇだし、あの重装備だし、間違いねぇ。狙いは地球じゃ無くて基地(ここ)だ、くくっ」
 「座標が知られているだと? いや、だが、それよりも何故だ。ケロン星とオランジ星は同盟関係にあったはずだろう」
 「それはちょっと前までの話であります。1週間前に衝突があってから、オランジ星と我がケロン星は交戦状態にあるでありますよ」
 「1週間前、それって……軍曹さん」
 ドロロがいなくなったのと同じタイミング。
 タママが最後まで口に出さずとも、誰しもが同じことを思い描いた。会議室に、また別の緊張感が漂う。ギロロが、何かを探るような視線をケロロに向けた。
 と、緊張した空気を破って小さくクルルの笑い声があげられた。
 「基地及び日向家へのバリア展開完了。迎撃システム及び自動反撃システムへの許可、第3レベルまで完了。使用可能武器へのアクセス権全解除、イけるぜェ、隊長」
 猛烈な速さでコンピュータを操作しながら、クルルはケロロを見てにやりと笑う。
 よろしい、とケロロは隊員に向き直った。
 ギロロとタママは息をのむ。
 先程までの気の無い様子とは全く違う、強い意思をもった黒い瞳。思わず2人は姿勢を正した。
 一方のケロロは大きく息を吸い込む。
 「総員、ただちに戦闘態勢! まずは我輩が交信を試みるでありますが、話し合いが不成立、もしくは決裂した場合は速やかに奴らを追い払うであります!」
 「了解!」
 部下達は敬礼をし、すぐに基地を飛び出して行く。それを見届けると、ケロロ自身も素早く踵を返し、会議室を後にした。




 「……って、言ったはいいけど結構キツイですぅ~!」
 ソーサーで空を一直線に駆け抜けながら、タママがぼやく。
 戦闘準備を整えてソーサーを引っ張り出したところで、早速攻撃を仕掛けられた。話などする気が無いようなのは一目瞭然だ。すぐにギロロと2人で飛び出したが、相手もかなり本気らしく、兵の数も武器の揃えも半端なものではない。先程からタママインパクトを何発も撃っているが、全く敵の数が減ったと思えなくてうんざりする。
 「集中しろ、タママ! 右だ!」
 声に反応して振り向けば、かなり近くに見えるビーム銃の銃口。
 あ、マズイ――そう思った瞬間目の前の敵に別の方向からビームが当たり、こちらを狙っていた銃の持ち主ごと落下していった。
 「油断するな、タママ」
 「ありがとうですぅ、ギロロ先輩」
 隙のない構えで銃の狙いをつけながら、ギロロが飛行ユニットを操作してタママの近くに寄る。そして軽く舌打ちをすると軍帽に手を当てた。
 「クルル! 反撃システムを出し惜しみするな、フルに使え!」
 『く~っくっく……俺様がそんなケチな男に見えるかい? とっくに全開っスよ』
 「くそ! 数が多すぎるぜっ」
 ギロロは使い慣れたハンドガンを自分専用武器庫に放り込むと、その手で大型のランチャーを取り出して、構えた。
 「ただ数が多いだけならこれでなんとかなるんだがな……」
 狙いを定めて引き金を引く。連続する大きな反動を全身で受け止めながら弾の行先に目を凝らすと、敵の乗っている宇宙船に全弾命中したのが確認できた。
 しかし、ギロロは面白くなさそうに口の端を歪めた。
 「ちっ。やはりか」
 『時代遅れの、対物理攻撃超強化型装甲でありますか……あーもう、今のウチじゃあ相性最悪だっつのっ』
 ケロロの声が通信機から聞こえた。ギロロは内心で頷きながら武器を中型のビームライフルに持ち替える。
 実体弾とビーム弾の使用される比率が同率――いや、ビーム弾の割合の方が多くなってきている近年、ビーム攻撃への防御を疎かにして物理攻撃への耐性に特化した装備を採用する星はごく稀だ。ほとんどないと言ってもいい。しかし、現在の交戦相手はそのごく稀な星のひとつであるようで、ひたすらに物理攻撃への耐性を強化した装備をしている。
 対物理攻撃超強化型装甲を備えた敵を相手にしたときの対処のセオリーは何か。
 それは、実体弾を使わずに、ビーム弾・ビーム砲で攻撃することだ。
 至極単純な話だが、それも有効となるのは互いの装備が同程度のレベルの時の話である。今の状況は、こちらは一人一人の能力が高いとは言えわずか4人、おまけに小隊の編成は不完全だし、対する敵は中型宇宙船が4隻に大型空母まで控えていて物量では圧倒的に不利だ。更に、現在のケロロ小隊の装備とは相性の悪い装備品を集中的に揃えられているおかげで、万遍なく用意されたギロロの手持ちの武器のうち実体弾はほぼ無意味となった。もちろん、強い衝撃を与えるので気持ちばかりの足止めにはなるのだが、これだけ敵の数が多いと足止めなど意味をなさない。
 タママが喚く気持ちもわからないでもないな、とギロロは思わず渋面を作った。しかし、ややうるさすぎると思い直し、後で説教をしようと心に決めながらタママの背後に回った敵を撃ち落とした。
 「あぁん、ビーム銃が足りないですぅ! てか埒があかねぇんだよ! クルル先輩、ロボは使えないですかぁ?」
 『喜べ、こないだの事故の影響で整備中だ』
 「どうしてこう肝心なときにー! くっそ使えないですぅ!」
 タママインパクトを放ちながらタママが悪態をつく。
 「タママ、飛ばしすぎちゃダメでありますよー」
 「まだまだイケるですっ、……あ、軍曹さんありがとうですぅ!」
 ケロロがソーサーに乗って合流してきて、タママに基地から背負ってきたビーム砲を投げて寄越した。タママは笑顔でそれを受け取ると、躊躇せずに敵の密集している場所へ向けて撃ちこんだ。
 タママの撃ったエネルギー波によって敵兵の集団が西澤家敷地内へ落ちていくのを確認し、ギロロは今度はこちらに近づいてきたケロロからビーム銃のエネルギーカートリッジを受け取りながら尋ねる。
 「どうだ、様子はっ」
 「さっきから変わんないでありますなッ」
 そして同時に相手の背後の敵を撃ち落とすと、目を合わせてにやりとする。
 「ポコペン侵略じゃなくてケロン軍(ウチ)狙いの攻撃だから宇宙警察は出てきやしないだろうしさっ。とりあえずここじゃポコペン人に気付かれる恐れもあるし、クルルの準備ができ次第“アレ”に引きずり込む、でありますから……って、あーもう鬱陶しい、ゆっくり命令も出せやしないっつの! 多いし固いし面倒くさいし、こういうときにドロロのありがたみを思い出す、でありますなっ」
 よく狙い、確実に敵にビームを当てながらケロロがぼやく。
 「そのことだが、いつになったら説明するつもりなんだ、貴様はっ。いや、こうなりゃ説明もいらん、土下座でも何でもしてとっととドロロを連れ戻して来い! そろそろ洒落にならんぞっ」
 無造作に連射しているように見えるが、一発も撃ち漏らすことなく敵に命中させながらギロロが怒鳴った。
 色々とセオリーの効かない敵を相手にしたときに頼りになるのが、ケロロの言葉で言うと“チート級”の強さを持つ、ドロロ兵長だ。
 戦場を縦横無尽に飛び回って武器を破壊し、特に装甲の固い敵から戦闘不能にしていく。彼の刀に斬れないものはないし、ビームだって跳ね返してしまう。その身から繰り出される忍術やアサシンマジックは常識という物差しから大きく外れていて、なにそれ反則、と突っ込みを入れたくなる程の強さだ。ギロロはこれまでドロロの立ち回りを低く評価してきたつもりはないが、こうして苦戦しているときなど、彼の存在の大きさを痛感する。まぁ、それを意識すると同時に少々悔しい気持ちも湧いてくるのだが、そんなことを考えられるうちは自分も余裕があるのだろう、と、ギロロは愉快気に笑みを漏らした。
 「もうすぐであります」
 「何?」
 カートリッジを交換しながらケロロが呟く。その瞳がいつになく焦りと本気の色を含んでいることに気付いて、ギロロは口を閉じた。
 「もうすぐでありますよ。もうすぐ。きっとね……」
 「……まぁ、せいぜい急いでもらいたいものだな。その前にこの状況を乗りきることができれば、の話だぜ」
 「そうねェ。さすがに、久しぶりに、ちょぉーっと、ヤバいでありますからなぁ」
 ケロロは敵に狙いを定めると、言葉とは裏腹に、にやり、と不敵に笑った。
 そしてタイミングをはかり――力強く引き金を引いたのだった。






 

Ⅲ(ⅰ)




皆、それぞれの場所で奮闘中。戦闘シーンってむずかしいです。でも好きです。
 

秋の夜長に虫のさざめく – Ⅱ



 (ⅰ)
 「うむ……やはり紅茶はオランジ星のものに限るね。香りが違う。そうだろう?」
 「はい」
 「この素晴らしさは何に例えればいいだろうね。咲き誇る薔薇の花のようでいて、百合の花のような主張しすぎない奥ゆかしさが……うまくないな、いまひとつだ。あぁ、しかし、一度この星の紅茶を飲んでしまうと他のものを飲むことができなくなってしまうね。ますますこの星が欲しくなった、そう思わないかね、ゼロロ兵長」
 「はい」
 「やれやれ。まったく君という人物は、私が何を尋ねても同じ返答ばかりだ。意見を聞いても必要最低限のことしか口にしない。ユーモアのない男だ。仕事をこなしているだけで十分、それ以上を望むのは欲張りというもの、そういうことかね?」
 「……そのようなことは」
 「イエス以外の君の言葉を聞いたのは久しぶりだよ、ゼロロ兵長」
 バララ中尉は喉の奥で笑った。それを見ているドロロの表情は先程から一向に変わらない。バララ中尉はそれすらも愉快そうに、ただ少しだけ困ったように微笑んで首を振ると、お茶請けのクッキーを指でつまんだ。
 ここはテーノン星雲第7番惑星、通称オランジ星内、ケロン宇宙侵攻軍第二中隊本部テント。
 ドロロがケロン軍第二中隊に異動となったその足でこの星へ来てから、既に1週間が経とうとしていた。オランジ星人は元来穏やかな気性の宇宙人だが、この星の名産である紅茶を取引中のケロン人の商船に一方的に攻撃を仕掛けてきたということで、現在、バララ中尉の指揮の下で侵略作戦の真っ只中であった。オランジ星人の揃える装備は、重要な貿易商品である紅茶を狙う不届き者に対処するために中隊規模のケロン軍のそれを上回るものがあるが、ケロン軍は経験と、そしてドロロという強力な情報収集ツールを武器に対抗していた。当初は拮抗状態が続いていたものの、ここ数日はケロン軍が優勢であり、優雅にティータイムを楽しむ時間の余裕もできたほどだ。
 軽く焼き上げたクッキーの食感に目元を緩ませつつ紅茶の香りを存分に吸い込んでから、バララ中尉は思い出したように一枚の紙片を差し出した。
 ドロロは無駄のない動きでそれを受け取って、書かれている文章を確認してから紙片を返す。
 「明日までだ。ここに書いていることを済ませてもらいたいのだが、できるかね?」
 「問題ありません」
 「では、任せたね」
 「了解」
 青い体が敬礼を返した、それを認識したと思った途端にドロロの気配は薄れはじめ、すぐにわずかな空気の揺れを残して姿が消える。それに遅れて、側で作業していた兵士が顔を上げ、おそるおそる、といった風に詰めていた息を吐き出した。
 「どうかしたかね?」
 「はっ、中尉殿。いえ。アサシンというものは本当にすごいな、と」
 「んん。そうだね。彼はここに来てから全ての任務を成功させているしね」
 「さすがはケロン軍の誇るアサシン……いえ、そのアサシンでもトップをとった男、ということでしょうか。ゼロロ兵長は、今も、まるで魔法のように消えてしまいました」
 「そうだね。だが、アサシンというのは、一様にどうにも気味が悪い」
 バララ中尉は鼻で笑った。
 「ゼロロ兵長。彼は非常に優秀だ。疑問を挟まず任務を受諾し、的確に遂行し、無駄なことをせずに戻ってくる。便利で使い勝手がいいのは確かだ。だが致命的なことに、あまりにも人間味が無いと思わないかね。最近発表された、最新型ロボットの方がまだ感情豊かじゃないかとさえ思うね」
 「あぁ、あのロボは。そうですね。それにしてもあのアサシンのガスマスク、重苦しくて見ているだけで気が滅入ってしまいます。どうにかなりませんかね」
 部下の言葉に笑いながら同意して、バララ中尉は紅茶を飲み干した。そして、カップを戻すと机に積まれていた書類に目を通し始めた。同時に新しく得た情報を伝えようと何人かの通信兵が慌ただしく入ってきて、先程までいた青い影のことなどすっかり忘れてしまったかのように、テントの中は活気を取り戻していった。




 風に木の葉を揺らしながら、一本の大木が空に向かって伸びている。
 その高く伸びた木の頂点に音もなく足をつけると、ドロロはふぅ、と息を吐いた。何気なく口元に手をやり、しばし硬直してから腕を下ろす。そして気怠そうに首を上に向けた。
 オランジ星は、淡橙色の空が美しい星だ。白い雲が姿を変えながら風に流れていく様は、幼い子どもの好みそうな甘いお菓子を彷彿とさせる。だが、常に淡橙色の空は、いくら眺めても心慰められることが無い。気分転換でも、と思い久しぶりに空を見上げたが、かえって胸に痛みを覚えるだけだった。抜けるような青い空を恋しく思っては沈む心を叱咤して、今日もなんとか持ち直す。
 ドロロは固く目を閉じた。
 落ち込んでいる場合ではない。
 地球を恋しく思っている場合ではない。
 自分が居るのは戦場だ。余計な考えは任務の邪魔だ。何度も自分に言い聞かせる。
 ――だがしかし、完全に割り切れるものでもない。
 この星に来てからというもの、一日たりとて地球を思わない日は無かった。愛する故郷に逆らうことになっても守りたい、そうまで決心したほど美しい星。豊かな自然と心優しい人たち。命の恩人であり、また、共に修行を重ね心通わせた大事な仲間、小雪。小雪のことを考えると、つらつらと思い出されるのは忍術修行に励んだ日々であり、それから小隊の皆の顔である。
 「ケロロ君……ギロロ君」
 辺りに気配を感じられないときは、その名前を口に出してみることもあった。
 ドロロは薄く瞳を開き、冷静に周囲の景色を視界に入れながら考えを巡らせる。
 唐突な部隊異動命令だった、と思う。
 もちろん、正式な書状による正規の通達を、末端の一兵士である自分が拒否できるはずもないのだが、だからといって、納得もいっていない。どれだけ、あの場で命令を跳ね除けて、自分は地球に身を埋めるのだと宣言してしまいそうになったことか。どれだけ、突然の命令の理由をケロロに問い詰めようと思ったことか。しかしそれをドロロに躊躇わせたのもまた、ケロロだった。
 これまでも、“アサシントップをとった男、ゼロロ兵長”を、ぜひ自分の部下にしたいといった申し出は数多く持ち込まれてきた。それでも、そういう話は動向を伺って慎重に避けてきたし、強引に小隊まで話を繋げてきた人物に対してはケロロがのらりくらりと断っていた。
 それが今回はケロロ直々の命令である。いつも全身でやかましくしている男が、表情を固くし、硬い声色で――声をかけられることを拒否するような雰囲気を醸し出しながら告げてきた。ドロロの見る限り、何かしらの洗脳術を施されている様子はなかったし、何者かに脅されている雰囲気も見受けられなかったのだから、ケロロの意思によって発せられた命令であることは間違いないだろう。まさか、ケロロがいつまでも地球侵略を邪魔する自分をついに見限ったのだろうか。そう考えるだけで絶望感に襲われる。そんな動揺を態度に表すことなく済んだのも、アサシンとしての訓練の賜物か、とドロロは自嘲するようにひそやかな笑いを風に乗せる。
 一羽の鳥が、軽やかに目の前を横切っていった。ドロロはそれを目で追ったが、それもすぐに見えなくなった。
 ドロロは寒気を抑えるようにして、両腕を体に回す。
 ケロロの真っ黒な瞳を覗き込むのが怖かった。自分を否定するように重く鈍く光るケロロの瞳を見てしまったら、自分は立ち直れなくなる。それで、つい反射的に目を閉じた。そしてそのまま全ての感情を仕舞い込んだ。後に残るのはただ凍て付いた精神。何事にも動じてはいけない、それは例えば強固な氷のように。
 ドロロの青い瞳が険しく細められた。
 何としても理由をつきとめる。
 地球にいたころに比べて今は随分忙しいので、任務に関係の無い情報収集をする余裕はない。しかし、どれだけ時間と手間がかかったとしても、自分が部隊異動させられた理由を――それ以上に、ケロロの真意を突き止めてみせる。ケロロの側にいられなくなってもいい、それがケロロの意思ならば自分は甘んじてそれを飲み込もう。ケロロの判断に自分が従わないことなど無いのだし、部隊が違ってもケロロを守ることはできるのだから。だからせめて、本人の口からそのことを告げてもらいたい。ドロロは、まだどこか虚ろな様子で空を眺める。
 ――ただ願わくは、ケロロ君の身に何もあらんことを。
 ケロロの立場を案じて、ドロロは微かに表情を曇らせた。
 と、その時視界の端に白い煙が見えた。作戦開始の合図である。
 ドロロは即座に思考を切り替える。不必要な思考は瞬時に凍結。必要なのは結果を出すための判断力。ほら、今日も完璧だ。
 必要最小限の動きで、ドロロは木の梢から飛び立った。しかし、未熟にも、一瞬己の感情が揺らいだのを自覚する。
 「……挨拶、しそびれたでござるな」
 もう帰ることのないこの身に、いってらっしゃい、と声をかけてくれた彼らに――。
 はらり、と梢から一枚の葉が落ちていく。
 その木の葉が地面に付くより早く、ドロロは敵陣の最奥へと風のように進入していた。




 「え? ドロロが帰ってこない?」
 「はい……もう1週間になります。学校から帰ったら、荷物がすっかり無くなって――ううん、これ以外無くして、いなくなっちゃって」
 同日、太陽系第3番惑星地球、午後。
 気が塞ぐような薄曇りの中、いつものように小雪と夏美が連れ立って下校していた。いつも、夏美といるときは明るく表情を変える小雪が、だが今日は肩を落とすようにして歩いている。夏美は隣で気遣わしげにしていたが、小雪が差し出したものを見てしばらく考えてから、あ、と声をあげた。そしてそのまま小雪の手に握られたものを指差した。
 「それってもしかして、ドロロがいつも口に巻いてる布?」
 「はい。これ、ドロロの口布です」
 小雪の手の中にある、薄い灰色の一枚の布。それは、ゼロロがケロン軍のマスクを脱ぎ、ドロロと名を変え、代わりに身に着けるようになった口布だった。
 「本当に、これだけ残して……あとは何にも。家の中が綺麗に片づけられて、ドロロの持ち物だけが無くなってたんです」
 「小雪ちゃん、ドロロから何も聞いてないの?」
 「はい。あ、別にちょっとくらい連絡がとれないのは珍しいことじゃないんですよ。忍ですから。でも、そういうんじゃなくて、ドロロは優しいから、いつも一言残してくれたんです。お買い物に行く時も、しばらく留守にするときも、お友達と一緒にいるときも。でも……」
 「今回は何も言わないで、その布だけ残して……?」
 「はい」
 小雪は布をギュッと握りしめる。痛々しい程に落ち込んでいるというのに、それでも自分のこと以上にドロロの身を案じている姿に、こちらの胸まで痛くなる。夏美は慌てた。
 「だ、大丈夫よ小雪ちゃん! きっとまたボケガエル達と何かやってるだけよ、きっとそう! あ、もしかしたらボケガエルに何かイタズラされてて連絡がつかないのかもしれないわ。もう、帰ったらボケガエルのやつ、しめておかなきゃいけないみたい、ね?」
 「夏美さん……」
 夏美が無理矢理明るく言ってみせると、それでも小雪は安心したのか少しだけ笑顔を見せた。それに夏美もほっとする。ちょうどそれぞれの家も見えてきたころだ。
 「とりあえずボケガエル達に聞いてみるわ。何かわかったら、すぐ電話するね、小雪ちゃん。また明日」
 「はい、また明日! じゃあね、夏美ちゃん」
 そのまま夏美は日向家の門を開いた。そして、2人はそれぞれの家に入っていった。






 

Ⅱ(ⅱ)

 



散々紅茶について褒め称えましたが、管理人は圧倒的にコーヒー派です。むしろ紅茶は苦手であまり飲めません。なんでバララさんを紅茶派にしちゃったんだろう(笑)。
ドロロ、一人奮闘中。周りも心配してます。




 

 (ⅱ)
 「……という訳だ。経緯としては今話した通りだが、早い話、アイツが無理に準備を急がせたのが原因だ」
 「とんだトバッチリですよぉ」
 「皆に何事もなくてよかったでござる」
 ここはケロロ小隊地下基地内、医務室――実に2割を超える基地設備が機能停止に陥ることとなった騒ぎの翌日、時刻は既におやつ時である。医務室で事の詳細を説明していたギロロが溜息とともに腕を組んだ。現在医務室にいるのはギロロ、ドロロ、そしてタママの3人である。先程までクルルも一緒にいたのだが、滞った仕事を片付けると言ってラボへ戻って行ってしまった。
 タママのために差し入れられたおやつを早速開けて、3人でお茶と一緒につまみながら世間話などしているのだが、その会話は自然と昨夜の事故に関する話題になった。
 「まったく、アイツはいつも思いつきで動くからこんなことになるのだ。今だって、散々探したのにどこにいるのやら、ちっとも見つからん」
 苛立たしげに手を振りながら、ギロロが唸った。そんなギロロにドロロが苦笑する。
 「ギロロ殿、まぁそう怒らず。大事なく済んだのでござるし、隊長殿も色々と忙しいのでござろう」
 「しかし結局、後始末をほとんどお前に任せてしまっただろう。俺たちが引き起こしたことだというのに、すまなかった」
 そう言うと、ギロロは深々とドロロに向けて頭を下げた。
 惨状の後始末、つまり基地内の片付けは既に終わっている。だが、それはほとんど昨夜のうちにドロロが一人基地中を飛び回って働いたおかげであった。元来特別な装備を必要とせずに危険な環境で無事に活動できるのはドロロだけであるし、寝込んでいた3人が使い物にならないのは言うまでもなく、その3人の診察、看病、経過観察のために手が離せないでいたクルルにも手伝う余裕はなかった。結局、ガスを無害化する薬品を散布したり、崩れた部屋の瓦礫を排除したり、といった大作業はドロロが一手に引き受けていた。今朝になってからギロロも加わったが、軽く掃除をしたくらいで作業はすっかり終わって、体力も時間も持て余してしまった。とりあえずドロロと連れ立ってタママの見舞いに来たものの、ギロロはどうにも落ち着かない気分だった。
 しかし当のドロロは手の空いている自分が率先して働くのは至極当然と思っていたので、頭を下げられることなど何も、と、その青い目を丸くしながら、頭を下げるギロロを必死で制止する。
 タママはそんな2人の様子をなんとなく見ていたが、お茶を一口すすって、ぼふん、と音をたてながら枕に頭を沈めた。そして、少し口をとがらせてギロロとドロロの方を向いた。
 「そういえば、ボクは今回の作戦の話、なんにも聞いてなかったんですよねぇ。ほら、たまーに、軍曹さんが一人でお仕事頑張ってる時とかもありますけどぉ、今回はギロロ先輩もクルル先輩も参加してたらしいじゃないですか。なのにボクには……」
 「え? 隊長殿が、タママ殿を呼ばずに作戦を?」
 「ドロロ先輩、それってボクがハブられてるみたいな言い方でいやですぅ」
 「……確かに」
 「えぇっ、ギロロ先輩までひど……センパイ?」
 タママは一瞬鋭い目付きで黒いオーラを出しかけたが、ギロロの何か考え込むような様子に気が付くと、キョトンと不思議そうな表情になった。ドロロも緩く首を傾げてギロロに視線を送る。2人の注目を集めたまま、ギロロは顎に手をやって考えながら口を開く。
 「確かに、今回、アイツはタママを呼ばなかった。俺はてっきり、急ぎの作戦だったし、戦闘がメインで無かったからなのかと……何より、どうせこの後お前らのことも呼ぶんだろうと思っていたが……いや、しかし、アイツがああまで作業を急がせるというのは、妙と言えば妙かもしれん」
 とりあえず自分が意図的に作戦メンバーから外されたのではなさそうだ、ということがわかって、タママが照れ笑いを見せた。しかし、ドロロはそれとは対照的に表情を曇らせる。
 「ギロロ殿。隊長殿は、そんなに急ぎで?」
 「ああ」
 ドロロとギロロが顔を見合わせた。
 「なにか、のっぴきならない事情でもあったのでござろうか」
 「さぁな。何かあったのは確かだと思う。毎度毎度の、下らんことかもしれんがな」
 「それならそれで結構でござる。だけど……隊長殿が何も考えずに締切りを繰り上げるというのはいつものこと、されどタママ殿を呼ぶ手間すら惜しむことなど、滅多に――?」
 と、唐突にドロロは右手を軍帽にあてた。
 軽く何度か頷くだけの返事をすると、そのまま椅子から立ち上がって足早に医務室の扉へと向かった。そして、自動ドアが開く直前で足を止めて、少しだけ振り向く。タママの尻尾が不安そうに下がっているのを見とめて、ドロロは柔らかく微笑んだ。
 「隊長殿から召集がかかり申したので、席を外すでござる」
 「個人回線で呼び出しですか? 珍しいですねぇ」
 「ドロロ……?」
 昨日の今日だ。何か妙なものを感じる。
 そう言いたげな視線を投げかけてくるギロロに、ドロロは体ごと向き直って、にこりとしてみせた。
 「用が済めば、またすぐに戻ってくるでござる。そうしたら、また話の続きでも」
 「……そうだな。あぁ、いってこい」
 「ドロロ先輩、いってらっしゃいですぅ」
 「ふふ、いってきます」
 2人に見送られ、軽く手を上げて応えながらドロロは出て行った。青い体が扉をくぐると、自動ドアが軽い音をたてて、ゆっくりと閉まっていった。




 『ドロロ兵長、ドロロ兵長。至急第3ミーティングルームまで来られたし。繰り返す、至急第3ミーティングルームまで来られたし……』
 ドロロは常になく固いケロロの声を思い出す。
 それを訝しみつつも、素早く地下基地内を移動する速度は変わらない。
 ドロロの呼び出された第3ミーティングルームというのは、地下基地でも利用頻度の少ない、奥まったところに位置する小部屋だ。作戦会議に使用されることは少ないが、時にケロン軍本部から極秘の任務が来たとき、また隊長が個人を呼び出して特殊な任務を伝えることなどに使われる部屋である。だから、その部屋に呼び出されたということは、また少しばかり小隊や地球から離れて別任務に就くことになるのだろうか、とドロロは推測を働かせる。
 ただ、ケロロの様子がいつもと違うようであることが気にかかる。
 依頼内容が厄介なものなのか。それとも何がしかのトラブルか。若しくは、と、そこまで考えたときには目的の部屋は既に目の前。
 乱れてもいない呼吸を軽く整えて、ドロロは入り口へと足を進めた。
 「隊長殿、只今参ったでござ――」
 「君がゼロロ兵長かね」
 自動ドアが開き、ドロロの視界に飛び込んだのはケロロと、もう一人の見知らぬケロン人。
 そのケロン人は部屋の中央に立って、こちらを振り向いた。
 ドロロは、思わず言いかけていた言葉を飲み込み姿勢を正す。
 薄い黄の体色に淡いピンクの帽子。直接会ったことこそないが、情報としては知っている人物だ。しかし――いや。ドロロはひとまず脳内の疑問符を打消して、慎重に口を開いた。
 「貴方は……バララ中尉、殿?」
 バララと呼ばれたそのケロン人は、先を少しカールさせた軍帽を指先で整えながら優雅に微笑んだ。
 「ふむ。アサシンの情報網は宇宙のように広く、また流星のように迅速であると聞いていたが、想像以上のものだね。その通り、私は今月1日付けで中尉に昇格した、バララだ」
 その微笑みに、しかしドロロは一歩身を引いて敬礼をするに留めた。慰問とも監査とも違う妙な空気に、つい全身が警戒態勢に入る。しかし状況を怪しむ様子を悟られないようにしながら、ドロロは気を付けの姿勢を取った。
 神経質そうに、やや鼻にかかった声で何事かを呟きながら、バララ中尉は帽子を揺らしてドロロの全身を検分するように視線を動かしている。その背後で俯くケロロの表情は、ドロロの位置からは伺うことができない。だが、ケロロはやがて、すっと顔を上げた。真っ黒で、底の見えない瞳がドロロを見つめる。そして、ドロロの正面まで進み出ると胸を張り、足を鳴らして立ち止まった。
 「ドロロ……いや、ゼロロ兵長。ケロン星から通達が来ているであります。ゼロロ兵長はたった今をもってケロロ小隊を離脱、今後はケロン宇宙侵攻軍第二中隊に所属すること。そして、バララ中尉殿を上官として、テーノン星雲、オランジ星の戦線へと向かうことを命ず。以上。バララ中尉殿の下で我等がケロン星のため、尽力せよ。我輩もお前の活躍を期待しているであります」
 ドロロはケロロを見据えたまま、微動だにしない。
 ケロロは念を押すように、ゆっくりと言葉を繰り返す。
 「よいでありますな、ゼロロ兵長」
 その言葉にドロロはそっと目を瞑った。
 次に目を開いた時、その瞳が纏うのは氷のような空気。
 「了解」
 常日頃のドロロを知っている者なら耳を疑うような、感情の排除された冷たい声音。部屋中が一気に氷点下まで下がったような錯覚を覚えるその空気の中、ドロロはケロロに敬礼をし、次に目の前の新しい上官に体ごと向き直って敬礼をした。
 「よろしくお願いします」
 「こちらこそ。君の活躍に期待させてもらうね、ゼロロ兵長」
 自分も敬礼を返して満足そうに何度も頷くバララ中尉とは対照的に、まったく表情という表情を見せないケロロ。
 そして、その2人を映す、冷然とした青い瞳――
 今、そこにあるものは、ただそれだけだった。






 

Ⅱ(ⅰ)




オリケロ登場。バララさんは、薔薇の「朝雲」という品種を参考にしています。綺麗で、ちょっとナルシストなイメージ。それにしても宇宙とか流星とか、笑っちゃいますね!(自分オイ)
 

秋の夜長に虫のさざめく - Ⅰ




 (ⅰ)
 果てなく広がる高い空。まるで自分もこの中に溶けて消えてしまいそう。

 秋も深まったとある日、そんな他愛ない事を考えた自分に笑いながら、ドロロ兵長は東谷家の屋根に降り立った。
 日課となっている午後一番の町内の見回りは、何事もなく終了した。同居人の小雪なら今頃は学校で友人たちと笑顔で過ごしていることだろう。周囲を見渡せば塀の上であくびをしている猫と目が合った。にこりと笑いかけて、そのままぐるりと視線を一周させる。どこにも争いなど見当たらない。平和という名の幸せ。ドロロは満足そうに頷いた。
 穏やかな気持ちで空を仰ぐ。
 本当にいい天気だ。
 暑すぎず、寒すぎず、湿度も気温も良好。
 青空にはゆったりと雲がたなびき、時折思い出したように鳥の鳴き声が聞こえてくる。
 夏の盛り、若く生命力に溢れた新緑も好いが、命尽きる最後の瞬間まで鮮やかさを競い合うような紅葉もまた見事。
 頬に柔らかな風を受けながら、こんな日は久しぶりに睦実殿と将棋でも一局、と考えていたところで、突然ドロロの胸がざわり、と鳴った。
 ――――これは、暗殺兵術、虫の知らせ(アサシンマジック、ビー・コネクト)!?
 「隊長殿!」
 急いでケロロ小隊地下基地へ飛び込み、胸のざわつきが強まる方へと進む。感覚に従って降り進んで来てみれば、第1シミュレーションルームが大惨事となっていた。
 立ちこめる煙、壊れて電気系統がむき出しになっている壁。ところどころ配線がショートして、時折大きな音とともに火花があがっている。足元には何かの装置の残骸と思われるものが散乱し、更にそれを覆い隠すように積み重なった瓦礫の山。
 ドロロは目の前の惨状に表情を険しくしたが、すぐにビー・コネクトに全感覚を集中させてケロロの居場所を探った。部屋に僅かに漂う甘い匂いと時折肌に感じる刺激はアサシンならばよく知った薬物だ。既に気化が進んでいるようで、急いで対処しなければ手遅れになりかねない。
 何かを感じてふと顔を上げ、そのまま部屋の中央に向かって大きく跳躍する。
 見据えた先には、中でも一番大きな瓦礫。
 一閃――!
 キラリ、と刀が光を反射したかと思った次の瞬間、瓦礫は細かい破片となって崩れ落ちた。その隙間から緑色の影を見つけて、ドロロは構えた刀を背に納めると倒れ伏しているケロロに駆け寄りしっかりと抱きかかえた。埃や粉塵をはらいながら声をかける。
 「隊長殿! 大丈夫でござるか、隊長殿!」
 頬を叩いても軽く揺さぶってみてもケロロの反応は無い。すっかり意識を失っている。幸いなことに呼吸はある、だが急いだ方が良さそうだ。そう思ってケロロを抱えたまま立ち上がったとき、通信機から陰気な声が聞こえた。
 『く~っくっくっく、ドロロ兵長、アンタは無事か』
 「クルル殿! これはいったい」
 『少々トラブって、ご覧のとおり。かなりの濃度のヤバいガスが漏れ出したんで、地下基地の地上からの隔離……と、第3ブロックの閉鎖が完了したところだ。念のためにこれから第4、第5ブロックまで本部から隔離させておくぜぇ』
 ドロロは応答しつつも、通風口や秘密の通路などを駆使して基地内を駆け上り、ひとまずガスの届いていない部屋の天井裏へと避難した。そして手持ちの薬類を探る。すぐにケロロが吸ったガスの中和液を取り出し、素早い手付きで手ぬぐいに染み込ませてケロロの口元にあてる。吸って、吐いて、一呼吸。ケロロが薬を吸い込んだことを見届けながら、ドロロは再び通信機を耳に押しあてた。
 「隊長殿を保護したでござる。クルル殿は、それに、他の皆は無事でござるか」
 『了解。俺は別室で操作してたんでなんともないっス。オッサンがたんまりガスを吸ったンで一緒に医務室で、ガキはどっかに……あぁ、第2シミュレーションルームに反応アリだ。レーダーが移動してねェところを見ると、お寝んね中かねェ』
 「と、言うと、ガスは第4ブロックまで漏れていたということでござるか」
 『そうみたいっすね。さすが俺様、ナイス判断だぜぇ……くっくっく。シミュレーションの機能は止めてあるんで、回収頼んます』
 「承知。2人を連れてそちらへ向かうでござる」
 通信を切ると、ドロロは軽い動作でケロロを肩に担いだ。
 軽く屈んで、跳躍。
 トン、と足音が鳴ったとき、既にそこにドロロとケロロの姿は無い。
 まるではじめから何もなかったかのような静寂の中、じわりと壁の隙間からガスが浸食し、次第にその場を厚く覆い、包みこんでいった。




 「クルル殿」
 「どーもっす。隊長はそっちに寝かして、ガキはこっち」
 ドロロがケロロとタママを担いで医務室へと入るなり、クルルから指示が飛ばされる。
 素直にクルルの指示に従って2人を部屋の奥に備え付けられたベッドに寝かせてから、ドロロはホッと息を吐いて深呼吸をした。いくらアサシンがどのような環境にも対応できるとは言え、やはり新鮮な空気は心地良いものだ。
 一方、クルルはそれまで看ていたギロロの傍を離れると、まずはケロロの隣に移動して体をあちこち確認する。
 「どれどれ……なんだ、隊長は問題ねェな。何かしたでしょ、ドロロ先輩。ん? その薬? あぁ、処置としては完璧だ。これなら放っといていいか。そのうち起きるだろ。さて、運動強度の高かったガキンチョは、と。ん~、インパクト前後じゃなかったのが救いだな。濃度も高くなかったし、吸い込んだ量もセーフだ。くくっ、運がいい。ま、念のために体温と呼吸の管理を……」
 クルルはテキパキと医療用機械のモニターを見たり、何かの装置を準備したりしていく。本人は医療分野は専門外だと言うものの、日ごろから何かと小隊の健康管理を任されているだけあって、その手際の良さは見事なものである。ドロロは感心しながら、流れるような動きをなんとなく目で追っていた。と、いつの間にやらクルルが目の前に立っている。カルテ片手のクルルにしげしげと眺められて、ドロロは少し気後れして後ずさった。
 「……何か?」
 「アンタはなんともないのか?」
 「アサシンでござるゆえ」
 ドロロが頷くと、クルルは楽しげに笑い、肩をひょいと上げると薬品棚の方へ向かった。棚から薬を物色しながら、ドロロを横目で見てにやにやと笑う。
 「本当に影響が無いみたいっスねェ。いくら薬物に耐性があるとは言え、あの濃度ん中で活動しといて。呆れたカラダしてんなぁ、まったく。そのうち研究観察させてもらいたいもんだぜ、く~っくっくっく……」
 「……それはご勘弁いただきたいでござるよ」
 ドロロはクルルから発せられる不穏な空気から逃げるようにして、寝ている3人の近くに寄った。そのままひとりひとり顔を覗き込んでみる。
 不幸にもガスの直撃を浴びた(クルルが思い出し笑いをしながら教えてくれた)というギロロだが、意識が落ちる寸前に状況を判断したようで口元に布があてがわれており、ガスを大量に吸い込むという事態は避けられたらしい。それに、医務室に運ばれてからはクルルが付きっきりで手当てをしていたから、顔色も悪くない。隣に寝かされたケロロも、決して少なくない量のガスを吸い込んでいたもののドロロが施した応急処置のお陰で大事に至らず、いつも通りの鮮やかな緑色だ。この2人は心配無用。タママだけが少々気にかかるが、クルルの様子を見る限り問題はないのだろう。ドロロは、寝苦しそうに唸っているタママの額の汗をそっと拭いてやった。
 「……ゲロ? ここは……」
 もぞ、と布団の中で身じろいで、ケロロが意識を取り戻した。まだぼんやりとしているようだが、目を覚ましたのなら一安心だ。ドロロはぱっと笑顔を浮かべてケロロの側へ駆け寄り、ケロロ君、と声をかけた。一方、にこにことケロロの様子を見守るドロロの後ろでは、クルルが水筒を手に取りながら、露骨につまらなさそうな顔を見せた。
 「おはよーさん、隊長。アンタが寝ている間にカラダの隅々まで、あんなことやこんなことを実験してみようと思ってたんだが……ちっ、仕方ねぇ。とりあえず水分補給しときなァ」
 クルルは言いながら水筒をドロロに向かって放り投げた。
 ドロロは苦笑しながらそれを受け取り、同じく苦笑しているケロロへ手渡した。しかし、まだケロロの握力が回復していないらしいことに気が付いて、手伝うためにベッドの隣の椅子に座った。ケロロはドロロに支えられつつゆっくりと水を飲んで一息ついてから、へにょ、と頼りない笑みを見せた。
 「ありがとうであります、ドロロ兵長」
 「なんの。隊長殿の体が第一でござるよ」
 「そうね、うん……そうでありますな。……あー、クルル? あのさ、その」
 「込み入った話なら後で、隊長。オッサンもガキも無事――あぁ、ガキの症状が若干重いが、問題無いっす。とりあえず寝てれば?」
 「そう、でありますか……了解であります」
 ケロロはそれで話を切り上げることにしたらしい。ドロロから、作戦用装置の成れの果てや、自分とタママが助けられた時の様子などを聞きながら、時間をかけて水筒の水をすっかり飲み干した。そして心地よさそうに布団に潜りこんだところで、ふと思い出したようにドロロの方を向いた。
 「そういやぁさ、ドロロ?」
 「にん?」
 「お前さん、よく助けに来てくれたでありますなぁ。こっちから連絡する前に、飛んで来てくれたんでショ?」
 ケロロはクエスチョンマークを頭の上に浮かべてドロロを見つめる。
 全てがあっという間の出来事だった。制作中の侵略マシンが見事なまでに大破して、みるみるうちに部屋中にガスが充満していった。ケロロは瓦礫に埋められて意識を失っていたし、クルルも地下基地を隔離して被害を最小に止めることを優先させたので、結果的に他の隊員への連絡は後回しにされていた。それでもなんとか全員の位置の把握を、と、クルルが手元にコンソールを広げたのと時をほぼ同じくして、ドロロが基地にあらわれてケロロを救出した。
 なんというタイミングの良さなのか。まさか、ドロロが偶然、基地にいてケロロを探していたと言うわけでもあるまい。それとも、トラブルを察知してすぐに現場に駆けつけるという、正義のヒーロー的な勘の良さでも持っているのだろうか。あぁ、なんとなく持っていそうな気もするけれど。この青い男は。
 ケロロの言いたいことを理解したドロロは少し困った顔で微笑んだ。
 「アサシンマジックで察知したのでござる」
 「アサシンマジック? あ、もしかしてアレでありますか、ビー・コネクトってやつ」
 ドロロは頷く。
 「存じてござったか。その通りでござる。詳しい事はアサシンの秘密ゆえ、聞かないで欲しいでござるよ」
 「ふうん。了解であります。とりあえず便利ねェ、ソレ。呼んでも呼ばなくても助けに来てくれちゃうなんて、もう、ドロロったら頼りになるんだからぁ」
 まだ弱々しいものの、枕を揺らしていたずらっぽく笑うケロロ。
 ドロロはただ穏やかな表情で、にっこりとケロロを見ていた。






 

Ⅰ(ⅱ)




いきなりハプニングから始まりました。
今回の話はドロロの暗殺兵術のひとつ、ビー・コネクトってどんな術なんだろう、ということをテーマにしています。途中から妄想が暴走しておりますが、最後までお付き合い下されば幸いです。

 

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photo by 七ツ森  /  material by 素材のかけら
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